哀しき血脈~紅い菊の伝説3~
第三章
九朗(クロウ)
美鈴はいつものように窓の外をぼんやりと眺めていた。
昼休み、いつもなら佐枝が何か話しかけてくるのだが、今は義男とともに姿を消している。啓介もまた話し相手の義男がいないので、孝達とともにいる。
「まったく、佐伯さん達はどこに行っているのかしら。もうじき授業が始まるっていうのに…」
美鈴の傍に来てぼやくのは美佳だった。
「仕方ないんじゃない。あの子達付き合いだしたばかりなんだから」
上の空で応えるのは美鈴だった。
「付き合い始めたって、あの子達ずっと一緒だったじゃない」
美佳が驚いたように言う。
「やっぱり違うみたいよ。告白(こく)るのと、告白(こく)らないのとでは…」
美鈴の返事はやはりどこか気が入っていない。
このところ美鈴の周りは穏やかだった。変わったところといえば佐枝達が付き合いだしたことと信が引っ越してきたことくらいだった。それ以外、これといった出来事はない。『もの』達も騒ぎ出すことはなかった。
「いいなぁ、佐枝達は」
ふと美鈴の口から溜息が漏れる。
「何言っているのよ。あなたには榊君がいるじゃない」
美佳が美鈴の肩をこづく。
「やめてよ。あいつとは腐れ縁っていうだけなんだから」
「そんなことを言っていた佐伯さん達はくっついちゃったじゃない」
美佳は追求することをやめようとはしない。
美鈴は抵抗するのをやめて、また窓の外に視線を向けた。美佳は諦めて美鈴の傍から離れていく。
春の空は穏やかだった。
太陽は穏やかな光と熱を降り注ぎ、鳥は空高くさえずっている。
(こんな日は学校に閉じ込められているのは悔しいな…)
美鈴がそんな不満を思ったとき、空の彼方に白い点が現れたのを彼女の瞳が捕らえた。
(何だろう?)
美鈴が目を懲らすと、その白い点は急速に接近してきた。
それは白いカラスだった。
そのカラスは勢いよく美鈴の近くの窓枠に近づき、そこにとまった。
美鈴の顔をじっと見つめる。美鈴の視線と重なる。
(なんだろう?)
美鈴はそっと人差し指を差し出す。カラスに近づけていく。
だが、カラスは逃げようとしない。それどころか頬の部分を人差し指に近づけてくる。
クラスの者は誰も気づいていない。
(まさかこの子)
美鈴はあることを思いついた。
白いカラスが放つ雰囲気が、碧眼の黒猫、魔鈴と出会ったときに似ているのだ。
このカラスも使い魔なのだろうか?
だとすれば命令に従うはずだ。
美鈴はカラスに向かって「この場を去れ」と心の中で命じてみた。
すると白いカラスは暫く美鈴を見ていたが、やがて大きく羽ばたいて飛び去っていった。
やはり使い魔なのかもしれない、そう思った美鈴は何か不吉なものが周囲に満ち始めているのを感じ取った。
既に何かが起き始めている、美鈴の心の中に棲む者がそう告げていた。
昼休み、いつもなら佐枝が何か話しかけてくるのだが、今は義男とともに姿を消している。啓介もまた話し相手の義男がいないので、孝達とともにいる。
「まったく、佐伯さん達はどこに行っているのかしら。もうじき授業が始まるっていうのに…」
美鈴の傍に来てぼやくのは美佳だった。
「仕方ないんじゃない。あの子達付き合いだしたばかりなんだから」
上の空で応えるのは美鈴だった。
「付き合い始めたって、あの子達ずっと一緒だったじゃない」
美佳が驚いたように言う。
「やっぱり違うみたいよ。告白(こく)るのと、告白(こく)らないのとでは…」
美鈴の返事はやはりどこか気が入っていない。
このところ美鈴の周りは穏やかだった。変わったところといえば佐枝達が付き合いだしたことと信が引っ越してきたことくらいだった。それ以外、これといった出来事はない。『もの』達も騒ぎ出すことはなかった。
「いいなぁ、佐枝達は」
ふと美鈴の口から溜息が漏れる。
「何言っているのよ。あなたには榊君がいるじゃない」
美佳が美鈴の肩をこづく。
「やめてよ。あいつとは腐れ縁っていうだけなんだから」
「そんなことを言っていた佐伯さん達はくっついちゃったじゃない」
美佳は追求することをやめようとはしない。
美鈴は抵抗するのをやめて、また窓の外に視線を向けた。美佳は諦めて美鈴の傍から離れていく。
春の空は穏やかだった。
太陽は穏やかな光と熱を降り注ぎ、鳥は空高くさえずっている。
(こんな日は学校に閉じ込められているのは悔しいな…)
美鈴がそんな不満を思ったとき、空の彼方に白い点が現れたのを彼女の瞳が捕らえた。
(何だろう?)
美鈴が目を懲らすと、その白い点は急速に接近してきた。
それは白いカラスだった。
そのカラスは勢いよく美鈴の近くの窓枠に近づき、そこにとまった。
美鈴の顔をじっと見つめる。美鈴の視線と重なる。
(なんだろう?)
美鈴はそっと人差し指を差し出す。カラスに近づけていく。
だが、カラスは逃げようとしない。それどころか頬の部分を人差し指に近づけてくる。
クラスの者は誰も気づいていない。
(まさかこの子)
美鈴はあることを思いついた。
白いカラスが放つ雰囲気が、碧眼の黒猫、魔鈴と出会ったときに似ているのだ。
このカラスも使い魔なのだろうか?
だとすれば命令に従うはずだ。
美鈴はカラスに向かって「この場を去れ」と心の中で命じてみた。
すると白いカラスは暫く美鈴を見ていたが、やがて大きく羽ばたいて飛び去っていった。
やはり使い魔なのかもしれない、そう思った美鈴は何か不吉なものが周囲に満ち始めているのを感じ取った。
既に何かが起き始めている、美鈴の心の中に棲む者がそう告げていた。