哀しき血脈~紅い菊の伝説3~
 美鈴はその光景を見ていた。
 いや、正確には何者かが送ってくる映像を彼女の脳が受け取っていた。
 警官が半人半蛇の『もの』に襲われたところ、刑事らしき人物と『もの』とが対決しているところ、黒い人物が『もの』の息の根を止めたところ…。美鈴はその光景を俯瞰した映像で見ていた。
 それはまるで鳥の視点のようだった。
 そこはこの辺りでは比較的新しいマンションの付近だった。
 平日の白昼の銃撃戦だったため、目撃者は少なかったのだろう、辺りが騒然とすることはなかった。
 遠くから何台ものサイレンの音が近づいてくる。
 視線は見るべきものは見たとでもいうようにその場から離れていく。
 パトカーの列を越え、公園を越え、隣接する小学校の上空で旋回する。
 どこからか子供達の歌声が聞こえてくる。赤と白の帽子を被った生徒達がグラウンドを走っている。
 視線は校舎の下の階から上に移っていく。
 二階の高さに移ったとき、不意に視線の移動が止まった。
 何かしっかりとしたものに降り立ったようだった。
 そこでは算数の授業が行われているようだった。黒板に懐かしい式がいくつも書かれていた。
 何人かの生徒が一生懸命その式と格闘している。
 それを佐伯絵美が見つめている。
 視線はゆっくりと彼女の隣に移っていく。
 そこにフードを被った信の姿があった。
(そうか、信君やっぱり学校に通うことにしたんだ)
 美鈴は嬉しかった。やはり同年代の子供達と一緒にいた方がいい。美鈴はそう思った。
 視線を通してみる限り、信は堂々としている様子だった。話に聞いていたように虐められているという雰囲気はない。
 視線は満足したように再び飛び立った。
 再び小学校の上空を旋回すると見慣れた風景に向かって飛んだ。
 そして窓の外から美鈴のを覗き込む映像を送ってくると、その映像は途切れ、美鈴は自分の目で周囲を見られるようになった。
 ふと窓の外を見るとそこにはやはりあの白いカラスが居た。
(やっぱりお前か…)
 心の中に棲む者の声が美鈴の脳裏に木霊した。
『そうだ、私はお前の使い魔だ』
 カラスは応えた。
『私は九朗(クロウ)、お前の使い魔だ』
 カラスは美鈴をじっと見つめていた。
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