家元の寵愛≪壱≫
俺は親父に午前中の稽古を頼み、
とある場所へと向かう事に…。
愛車に乗り込み、目的地へ車を走らせた。
指定された場所に車を停め、車から降りる。
軽く着物の着崩れを直して…。
建物の中へと足を踏み入れた。
周りを行き交う人々は俺の姿を見て
物珍しそうに視線を向ける。
まぁ、和服なんて普通の人は殆ど着ないし、
こういう好奇の目に晒される事は日常茶飯事。
俺は涼しい顔で事務局へと向かった。
「おはようございます」
「あっ、おはようございます。どうぞ、こちらへ…」
受付の男性職員に促され、
隣りの応接室へと通された。
「あの、こちらがお預かりした書類です」
俺は記入済みの書類を男性職員へ手渡した。
「有難うございます。では、担当職員を呼んで参りますので、今暫くお待ち下さい」
「恐れ入ります」
男性職員は会釈して、部屋を出て行った。