家元の寵愛≪壱≫
『どうしました?』
声を掛けてくるが、
私の視線はその人に固定されたまま。
「あの、会場にいる男性なら誰でもいいんですよね?!」
「あっ、はい!!ここへ連れて来て下さい」
笑顔で答えたスタッフ。
「はい!!」
私は視線の先のその人目指して
無我夢中で走り出した。
大勢の観客が見守る中、
場違いな和服姿だというのに…。
「隼斗さ~んっ!!」
私は彼の胸に飛び込んだ。
「ゆの、何なんだ、コレ?!」
「知りませんよ!!私もさっき無理やり立たせられて…」
「ん?」
「それより、お仕事は?」
「あぁ、それか…。稽古先の施設が臨時休館日らしく、母さんが言い忘れてたんだよ」
「えっ?!」
「だから、ゆのの様子を見に来たら、坂本さん(彼の授業を取ってる子)がゆのなら体育館に…って」
そうだったんだぁ……。