家元の寵愛≪壱≫
コンコンッ―――――。
車の窓を軽く叩くと、ドアロックが解除される。
最初の2~3日は車の外で待ってたらしいけど、
恐ろしいほどの学生に囲まれて大変だったらしい。
………想像がつく。
けど、だったらわざわざ迎えに来なくていいのに。
困惑しながらもドアを開ける。
「すみません、遅くなって…」
「あぁ…気にしてないよ」
軽く頭を撫でられ、車は走り出した。
ベベベベベベリベリバリバリバリッ…
何度聴いても凄い音。
私の心臓の音と同じくらい。
車を運転する隼斗さんはカッコイイ。
ううん。
和服姿もカッコイイし、
稽古の一環でジョギングをしてるんだけど、
ランニングウェア姿も凄くカッコイイ。
いつ見ても、どんな恰好してても目の保養。
車という密室な空間で、大好きな人がすぐ隣りに。
車内は高級フレグランスの香りが漂う。
ダージリンティーとシトラスが
織りなす爽やかな香りが鼻腔を擽り、
エンジン音と共鳴し合うように、
私の心臓が躍り出す。