家元の寵愛≪壱≫


隼斗さんは私の右腕の肘上を掴んで、

箸の場所へと誘導してくれる。


指先に触れた棒状を手に取り、

左手で落とさないようにしっかりと持った。


彼の指示で何とかお蕎麦を掴み、

左手は蕎麦つゆらしき器へ。


何とかお蕎麦をつゆに付け、

彼の口元目指して腕を上げた。


すると、


「ゆの、もっと上、もっと!!」


彼の声に反応するように、

お蕎麦を掴んだ腕を必死に持ち上げ…


「あっ!!」


感覚的に分かった。

今、彼の口の中に箸先が…。


真っ暗な服の中では、

彼の背に寄り添うように

心地いい彼の体温を頬で感じて。


彼の体温と私の吐息が重なり合って

暑さのせいなのか、

急に顏が火照り出した。


その後も、彼の指示のもと

何度も何度もお蕎麦を運んで……。



結局、ゲームは2位で終わった。

ミスコン会場は大盛り上がりで幕を閉じた。



そして―――――




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