家元の寵愛≪壱≫
十 紅葉狩り
11月下旬、紅葉シーズン到来。
茶道家にとって、これからはますます忙しくなる。
秋の茶会を終えると年末年始に追われ、
初釜を終えてもまたすぐ春の茶会の準備に追われる。
これからの季節は毎年、
ノンストップで茶を点てる毎日。
そんな俺に親父が、
『色鮮やかな紅葉でも眺めて、心に栄養を補って来なさい』
それは願っても無いサプライズで…。
俺は親父の優しさに深く感謝した。
これから、暫くの間は遠出は勿論、
ゆっくりと過ごす時間も俺には無い。
『家元』という立場で、
大勢の者たちの上に立つ身。
それがたとえ『新婚』であったとしても。
まだまだ隠居するには早すぎる親が
事あるごとに手を貸してくれるのは有難い。
こうして忙しい時期にも係わらず、
ゆのと1日デートが出来るのだから。
「隼斗さん、この服で大丈夫ですか?」
「んー、寒いからマフラーしたら?」
俺は離れの玄関でゆのを眺めて…。