家元の寵愛≪壱≫
十二 愛は恋よりも濃密に…
12月24日 午前9時。
クリスマス・イヴだというのに、
……離れの玄関で。
「ゆの、帰って来たらすぐに出掛けるから、頼むな?」
「はい」
「ん、じゃあ、行って来る」
「行ってらっしゃい」
―――――チュッ
ゆのの唇に軽く触れるだけのキスをして
俺は稽古場・柳幻荘へと向かった。
『家元』という立場上、初釜を控え
自宅を留守にして遠出する事も出来ず。
両親に頭を下げ、何とか2日間だけ確保した。
―――――そう。
明日はゆのの19歳の誕生日。
何が何でも休みが欲しくて、
今日は16時まで稽古をする事に。
無事に稽古を終え、16時40分自宅到着。
俺は急ぎ足で離れへと。
「ただいま!!」
愛らしく微笑むゆのが、
廊下に解き落とした帯を拾いながら
「お帰りなさい。着替えは洗面所に」
「悪い、ゆの。急いでシャワー浴びて来るから」
「はい」
着物も襦袢も脱ぎ捨て
俺は浴室へと駆け込んだ。