家元の寵愛≪壱≫
「もしかして、お誕生日なんですか?」
隣りのテーブルの男性が声を掛けて来た。
「あっ、はい。そうなんです////」
ハニカミながら返事をするゆの。
「ホントに?そりゃあ、おめでたい」
「おめでとうございます」
彼女らしき女性がお祝いの言葉を。
「あ、ありがとうございます////」
すると、
「すみません、あれ、お借りしても良いですか?」
「えっ?あぁ…はい、どうぞ」
オーナーの奥さんはにこやかに返事を。
そして、隣りのテーブルの男性は席を立ち、
「ちょっと、行って来るな?」
「うん」
部屋の隅へと歩き出した。
そして……。
部屋の隅に置かれたグランドピアノで
バースデーソングをジャズアレンジして弾き始めた。
5組しかいない宿泊客。
あっという間にその場は
ゆのの誕生日パーティー会場と化した。
心優しい人々に囲まれ、
ゆのの19歳の誕生日は
最高に素敵な一夜となった。