家元の寵愛≪壱≫
「アレはね、代々『家元』がお客様に手土産として、お持ち帰りして頂くモノなの」
「へ?」
「今年は私達が殆ど用意してしまったのだけれど…」
そんな事があっただなんて。
隼斗さん、何で教えてくれなかったのかしら?
私が顔を歪めていると、
「隼斗がね?ゆのちゃんは転科試験が控えているから、内緒にしようって」
「……そうだったんですか」
お義母様が気まずそうに口にした。
彼の優しさにまたまた感動させられる。
ホント、優しすぎるんだから。
私は小さなため息を吐いて、
「来年は必ず、ご用意致しますね」
「フフッ、別にいいのよ?頼ってくれて」
「えっ?」
「隠居したからといって、何もしない訳にはいかないし。私達だって、若い頃はお義母様に手伝って貰ったのよ」
「そうなんですか?」
「えぇ。だから、遠慮なく甘えてちょうだい?」
信号待ちで止まった車内で
お義母様は私の手をギュッと握りしめて
いつもと変わらぬ素敵な笑顔を。