家元の寵愛≪壱≫
「毎年、秋頃から年末にかけて地方稽古の度に、馴染みの窯元でお世話になってるのよ」
「そうなんですかぁ」
お義母様は箱の中から1つを手に取り、
「今年は箸置きにしたのよ」
「箸置き?」
「えぇ、去年は小皿だったし…」
「凄いですね」
「大したものは作れないけど、結構評判が良いのよ?」
お義母様はそっと箱の中へ戻して…。
「今年はこれをゆのちゃんに任せるわね?」
「私にですか?」
「もちろんよ。家元の妻でしょ?」
「………はい」
「私も手伝うから心配しなくて大丈夫よ」
「……はい」
膝の上に置いていた私の手に、
お義母様の手が重ねられた。
いつもいつも優しく包み込んでくれる温かい手。
とても小柄な女性なのにその存在は凄く大きく、
………心から安心出来る。
『家元の妻』として、
また1つ大きな責務が……。