家元の寵愛≪壱≫
「静乃さん、そろそろ準備は…」
「あっ、はい。ほぼ、整ってございます」
静乃さんの背後から、お義父様が姿を現した。
すると、お義母様が満面の笑みでお義父様に耳打ちを。
ん? 何かしら??
私は不思議に思い、首を傾げていると
「ゆのちゃん、これを隼斗に届けて貰えないかな?」
お義父様はそっと隼斗さんの懐子入れを差し出した。
「…はい」
私がそれを受け取ると、
「隼斗は今、緊張のピークで真面な茶が点てられないでいる」
「えっ?!」
「だから、ゆのちゃんの笑顔でも見たら、いつものあの子に戻ると思うんだが」
「……そうでしょうか」
「ゆのちゃんがそばにいるだけでいいの。あの子に寄り添ってくれるだけで」
お義母様まで一緒になって…。
お茶が点てられないだなんて初めての事だし、
しかも、今朝だって私を避けようとしてたのに……。
そんな彼を、私なんかがどうにか出来るとも思えない。
どうしたらいいの?