家元の寵愛≪壱≫
私が不安を隠せないでいるのに
2人は私を茶室へと後押しする。
行き交うお弟子さん達が、
何事かと視線を浴びせる中、
彼のいる茶室の前に辿り着いた。
『じゃあ、宜しくね?』
そんな風に言わんばかりに目で合図を送られ
私はフゥ〜と、大きなため息を吐いた。
彼を一生支え、寄り添うと決めたじゃない。
彼の愛情を日々感じながら、
私は何ひとつ真面に返せていない。
今、私に出来る事があるなら
全身全霊で彼の心に寄り添おう。
私は、茶室へと静かに足を踏み入れた。
隼斗さんは精神統一をしているようで
微動だにせず、正座したまま。
目を閉じている彼は、
まるで空気に溶け込むように
その存在を消している。
私はゆっくりと歩み進め、
彼の少し後ろに正座した。
どれくらいの時が経っただろう。
5分? 10分??
全く動く事なく、
呼吸しているのかさえ分からない程。