家元の寵愛≪壱≫
「そのまま」
「えっ?」
「もう少し、このままで…」
「………はい」
彼の声が少し震えてるいる気がした。
今は彼の好きなように……。
隼斗さんは私の腕を掴んで、
彼の背中を背後から抱きしめる形に。
背中から伝わる彼の鼓動。
少しずつ落ち着いて行くのが分かる。
その心地よい鼓動を聞きながら
私は優しい声音で語り掛ける。
「大丈夫ですよ。隼斗さんは1人じゃないです。私は勿論お側を離れませんし、お義父様もお義母様だっていますから」
「………」
「辛い時は私の肩に寄りかかって下さい。頼りないかもしれませんが、バイトで鍛えた身体には自信がありますから」
「んッ?………フッ、身体?」
「はい!!」
「フフフッ……」
「それに、心からおもてなしの気持ちで点てるだけで十分ですよ。隼斗さんには隼斗さんのお茶があります。他の方が点てられたお茶ではなく、隼斗さんが点てたお茶を楽しみにお見えになるのですから」
「フッ……ホントだな」
漸く、いつもの彼に戻ったみたい。