家元の寵愛≪壱≫
そんな事になってたとは知らなかった。
まぁ、母さんなら言い出しかねない。
「もし、マンションとか別の場所に住みたいなら、そう言いなさい。母さんは私が説得するから」
「…………あぁ」
親父の優しさが伝わってくる。
だけど、別に家が問題じゃねぇんだよな。
仕事というか、時間の問題?
俺はもしかして?と淡い期待を抱きながら…
「あのさぁ、親父」
「ん?何だ……何かあるのか?」
「何ていうか……仕事、休むワケにはいかないよな?」
「仕事か?」
「うん」
「そうだな……今は茶会前で忙しいし、土日は茶道教室もあるから休みは…」
「やっぱりムリかぁ……」
そうだよなぁ……。
親父だってそうやってやって来たんだし。
俺が納得の表情を浮かべていると、
「ゆっくり出来る時間が欲しいなら…」
「え?」
親父の言葉に手が止まった。
親父は少し明るい顔つきで…