家元の寵愛≪壱≫
―――――――ゆのの携帯電話が。
無造作に鏡台の上に置かれている。
何故だか分からないが、急に胸騒ぎが…。
しっかり者のゆのが携帯を忘れて行くとは。
……腑に落ちない。
んッ?!
いや、待て、確か……。
俺は更なる違和感を覚え、離れを飛び出した。
向かった先は、駐車場。
―――――――やっぱり!!
そこには、ゆのの愛車が停まっている。
帰宅した際に
『天気がいいから洗車でも…』と、
この目でこの車を確認していた。
って事は、ゆのは何で出掛けたんだ?
電車か? バスか??
それとも、タクシーか?!
一体、どこへ出掛けたんだ?
胸の奥がモヤモヤと。
連絡したくても携帯は自宅だし。
俺は重い足取りで再び、離れへと。
分別のつかない子供でも無いし、
ましてや、夫婦喧嘩して、
家を飛び出した訳でも無いし。
用事が済めば帰って来るだろうが、
それまで、俺はじっと待っていられるだろうか?