家元の寵愛≪壱≫
「んッじゃあ、行って来い」
爽やかな笑顔で、
とどめに軽いキスを…。
首まで真っ赤に染めたゆのは
“行って来ます!!”と、
吐き捨てるように言い残し
大学の構内へと消えて行った。
その日を境に俺は修練に励んだ。
自宅と稽古場、一門の茶室、
そして数市にも及ぶ茶道教室へと。
無我夢中で…
初心に返り…
雑念を捨て…
ゆのの送迎は母さんに頼んで。
食事の時以外、ゆのの姿を見る事はほとんど無い。
母さんは親父から何て聞いたか知らないが、
俺を見る度ニヤニヤしてる。
う゛っ……マジで気持ち悪い。
新種の生物みたいでキモすぎる。
稽古は稽古で…
自分に厳しくしていたら、
弟子達の粗さが目にあまり
ついつい厳しく注意すると…
「家元、最近怖いです…」
って、泣かれる始末。