家元の寵愛≪壱≫
十六 愛のカタチ
3月も数日が過ぎた頃、
俺は腕の中で眠る愛妻を無言で見つめていた。
半月ほど前からゆのの様子がおかしくなり出し、
俺らにはちょっと微妙な距離がある。
恐らくは俺の行動がそうさせているのだろうけど、
今は時間がなさ過ぎて、どうにもフォローし切れない。
―――――ゆのには隠している事がある。
それは数カ月も前からなのだが、
それに彼女が薄々感づき始めたのが半月前。
本当は最後まで隠しておきたかったし、
隠し通せると思っていた。
だが、俺らは夫婦。
鼻から隠し通せる筈は無かったんだ。
だからと言って、ゆのに打ち明けるつもりは無い。
俺の事を心の底から『愛している』のなら
きっと、全てを許してくれるだろう………そう思った。
朝稽古の時間が迫り、
俺は彼女の身体をそっと解放する。
ベッドの中でしか寄り添えない夫婦。
あまりの忙しさに妻の気持ちも見ないふりして、
俺は平静を装って『夫』を演じる。
けれど、これも限界かもしれない。
俺の中で悲しむ彼女の顔を見るのが限界になっていた。