家元の寵愛≪壱≫
ゆのの車を後ろから追走する形で
俺は自宅方面へと車を走らせた。
2時間程して自宅周辺でゆのとは別れ、
俺はとある場所へと向かった。
そして、そこに
車に積んでおいた荷物を下ろし、
再び車に乗り込んで、愛妻が待つ自宅へと向かった。
門前に停車すると、
「早かったんですね」
「待ってたのか?」
「はい。他にする事が無かったので」
「寒くないか?」
「はい、大丈夫です。もう、春ですから」
俺の到着をずっと待っていたようだ。
ゆのは桜のような愛らしい笑顔を向け、助手席に乗り込んだ。
「お腹は?……空いてるか?」
「いえ、大丈夫です」
「体調は?」
「え?………大丈夫ですけど……それが何か?」
「あ、いや、何でも無い。今日は夜までちょっと忙しくなるけど、いいか?」
「?………はい、大丈夫です」
俺の質問に首を傾げながらも、笑顔で返答した。
先日とはまるで別人の彼女。
俺の言動1つでこうも変わってしまう事に少なからず罪悪感を感じた。
―――――必ず、彼女を幸せにしなければ。