家元の寵愛≪壱≫
十七 ファンタスティックな時間
藤堂の家を出て数日。
私は父親がいる、さゆりさんの家へと来ていた。
さゆりさんは8年ほど前にご主人を亡くされ、
自身の身体を労わりつつ、仕事をしながら生活している。
この家は設計士であるさゆりさんが設計し、
大工である亡くなったご主人が建てたものらしい。
長閑な景色に良く合う、温かい雰囲気の家。
父親も設計士だから、
さゆりさんの気持ちは良く解るらしい。
想いの詰まったこの家には、
ご主人と過ごした時間が沢山刻まれている。
私は、好きな人の過去をすんなりと受け入れられる2人が
最初の頃は本当に理解出来なかった。
だって、隼斗さんが昔の彼女との思い出の品を
大事そうにとっておいていたら、私は絶対嫉妬する。
写真1枚でさえ、きっと我慢ならないと思うから。
でも、最近になって漸く理解出来るようになって来た。