家元の寵愛≪壱≫
藤堂の家を出て10日が過ぎた。
未だに彼から連絡はない。
ふと時計に視線を向けると、午後5時を示している。
そろそろ稽古が終わる時間よね?
携帯に電話を掛けたら迷惑かな?
………やっぱり、止めておこう。
『待ってて』と言ってたもの、私から催促してはいけないのよ。
彼から連絡が来るのを待つしかない。
胸がギュッと締め付けられるように苦しいけど、
それでも『別れたい』と言われた訳じゃない。
私にはまだ少なからず希望がある。
今はそれを信じて待とう。
縁側に腰掛け、左手を夕焼け空に照らして……。
彼から貰った指輪の存在が唯一の心の拠り所。
まだ彼から『返せ』とは言われていない。
そもそも、そんなケチ臭い事は言わなそうだけど
だけど、コレを私が身に着けている限り、
私は彼の『妻』である証拠だと思うから………。
ただ呆然とそれを見つめて、
鳴りもしない携帯をギュッと握りしめていた。