家元の寵愛≪壱≫
―――――3月14日
3月にしては暑いくらいの陽気で
街の大通りでは恋人同士が肩を並べて
時折、見つめ合いながら歩いている。
世間では今日のこの日を『ホワイトデー』と呼ぶ。
私は情けない姿を晒したくなくて、
さゆりさんの家を出て、隣り町のカフェに居た。
窓の外を眺めてはため息が零れ出す。
バッグの中に収めている彼へのプレゼントも
陽の目を見る事の無いまま、時間だけが過ぎ去ってゆく。
正直な気持ちを言うと、
心のどこかで期待していたんだ。
―――――きっと、14日には迎えに来てくれる。
そう心の隅で期待せざるを得なかったの。
だって、彼は記念日やイベントは大事にする人だから。
だから、もしかしたら?………って、
ずっとずっと待ち侘びて、
一日中携帯を握りしめてる私がいるの。
でも……………携帯は鳴らない。
彼からの連絡も無いまま、時間だけが過ぎてゆく。
重い腰を上げ、2人の待つ家へと向かった。