家元の寵愛≪壱≫
「ただいま」
「お帰りなさいッ!!」
玄関のドアを開けたら、さゆりさんが待ち構えていた。
それも、物凄く心配している面持ちで。
「遅くなって、すみません」
「いいのよ。子供じゃないんだから」
私の顔を見て、安堵しているさゆりさん。
本当の母親でもないのに、
こんなにも心配してくれている。
恐らく、私が自殺でもするんじゃないかと思ったに違いない。
今朝、家を出る時は本当にそんな表情だったから。
でも、今は違う。
もう、大丈夫。
吹っ切れたと言うにはまだ早いけど、
私の中では気持ちが固まったから……。
多分、彼女はそれを悟って安堵したに違いない。
私はそれほど、分かり易い顔をしているのだと思う。
「ご飯は?」
「食べます」
「じゃあ、手を洗って来なさい」
「はい」
決意したからには万全を整えないとね?!
彼に逢うまでに健康的になっておかないと
本当に彼に愛想を尽かされてしまうから。