家元の寵愛≪壱≫


「ただいま」

「お帰りなさいッ!!」


玄関のドアを開けたら、さゆりさんが待ち構えていた。

それも、物凄く心配している面持ちで。



「遅くなって、すみません」

「いいのよ。子供じゃないんだから」


私の顔を見て、安堵しているさゆりさん。


本当の母親でもないのに、

こんなにも心配してくれている。


恐らく、私が自殺でもするんじゃないかと思ったに違いない。

今朝、家を出る時は本当にそんな表情だったから。



でも、今は違う。

もう、大丈夫。

吹っ切れたと言うにはまだ早いけど、

私の中では気持ちが固まったから……。


多分、彼女はそれを悟って安堵したに違いない。

私はそれほど、分かり易い顔をしているのだと思う。



「ご飯は?」

「食べます」

「じゃあ、手を洗って来なさい」

「はい」



決意したからには万全を整えないとね?!

彼に逢うまでに健康的になっておかないと

本当に彼に愛想を尽かされてしまうから。


< 372 / 450 >

この作品をシェア

pagetop