家元の寵愛≪壱≫


「そういう事なら、最終磨きと行きますか?!」

「えっ?」

「えっ?じゃないわよ!!迎えに来たら、今度は二度と手放す事が出来ないくらい美しいレディにならないと♪」


さゆりさんはキュートにウインクをして、

私の両手をギュッと握った。


「あっ、でも、お仕事は?」

「そんな事は気にしないの!!大人にはね、『有給』というモノがあるんだから♪」

「………ありがとうございます」


さゆりさんの優しい瞳につい目頭が熱くなる。

本当にどこまでもお母さんに似ている。




その後、さゆりさんと2人で先日訪れたサロンへと向かった。


隼斗さんに逢う為に、

隼斗さんに見て貰う為に、

隼斗さんに触れて貰う為に、

隼斗さんの傍に居させてもらう為に……。


普段ならネイルだなんてしない私が、

彼の為に女性らしくなりたいと心から願い、

その感情1つでどこまでも頑張れる自分がいる。



真っ黒な髪をほんの少し明るくしてみたり、

真っ直ぐなストレートの髪をふんわりと巻いてみたり、

肌のお手入れを念入りにする為、シェービングまでして。


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