家元の寵愛≪壱≫
バリバリバリバリバリバリバリバリッ………
突然、遠くの方から爆音が耳に届く。
あれは紛れもなく、彼の車!!
私は一目散に庭先へ走り出した。
エンジンが切られた車から降り立った王子様。
サラリとした黒髪を靡かせ、
長い脚をスッとドアの隙間から伸ばし、
爽やかな香りを漂わせて、目の前に現れた。
―――――逢いたくて逢いたくて愛おしい人
彼に触れたい。
抱き締めて貰いたい。
優しく髪を撫でて貰いたい。
だけど、あと一歩が踏み出せない。
彼からまだ『妻』として
許された雰囲気が感じられないから。
もしかしたら、本当に『別れ』に来たのかもしれない。
そう思うと、胸が張り裂けそうに痛み出した。
鼻の奥がツンとし、今にも涙が溢れて来そう。
グッと奥歯を噛みしめ、彼の言葉を待っていると、
?!!
優しい声音で極上のスマイル。
そして、両手広げて―――――
「おいで」
私は躊躇することなく飛び込んだ。