家元の寵愛≪壱≫
四 海外興行
「ゆの、荷物の整理は終わったか?」
「あっ、はい。もう殆ど終わりました」
「じゃあ、夕食に出掛けるから用意しといて」
「隼斗さんは?」
「ん、静乃さん達の様子を見て来る」
「そうですか」
「戻って来たらすぐ出掛けるから」
「はい、用意しておきます」
「ん、じゃあ行って来る」
俺はホテルの部屋にゆのを残して
同じフロアにいる弟子達の部屋へ。
俺たちは今、イギリス・ロンドンに来ている。
毎年恒例の海外興行の為に。
海外興行と言っても、
あまり畏まったものでは無く
『茶道を広める為のイベント』
と言った方が正しいのかもしれない。
去年までは親父と共に来ていたが、
今年から独り立ちして……ゆのと共に。
そして、俺をサポートする香心流の弟子を
選りすぐって10人ほど同行させている。
その中心にいるのが静乃さん。
親父の下で海外興行も経験豊富の年長者。