家元の寵愛≪壱≫
1か月後の7月下旬―――
「じゃあ、ゆのちゃん頑張ってねぇ~?」
「はい」
「ゆの、行くぞ?」
「はい」
私は隼斗さんの車に乗り込んで、藤堂家を後にした。
目的地の駅までの車内は何故か無言で。
午前7時40分。
駅前は通勤の人で溢れていた。
「では、隼斗さん。行って参ります」
「……ん」
何だか冴えない顔の隼斗さん。
私は申し訳ない思いを掻き消すかのように
必死に満面の笑みを浮かべた。
すると―――――、
人目もはばからずギュッと抱き寄せ
「ゆの、絶対に指輪を外すなよ?」
「……はい」
「毎日、電話しろ?」
「…はい」
「何かあったらすぐに迎えに行くから」
「はい」
ふと緩められた腕に寂しさを覚え、
隼斗さんの瞳をじっと見つめてしまった。