家元の寵愛≪壱≫
俺らは炎天下の中で炉の灰の手入れをしている。
秋から春にかけて、毎日のように使用する炉。
この炉から灰を汲み出し、番茶を掛け天日干し。
乾いた灰にまた番茶を掛け天日干し。
数日間、この作業を繰り返す。
茶道教室を数市にもおよび複数抱えている香心流は
その作業だけでも一大行事と化している。
けれど、手入れを施した灰は、
ほんのりと色づき、そして仄かに香る。
苦労した分だけ、質の良い炉が出来上がり
そして、その炉で沸かされた湯は極上の湯となる。
ここ半月ほど毎日炎天下で作業したせいで
俺はすっかり小麦色の肌になった。
16時過ぎに自宅へ戻り、シャワーを浴びて
ゆのを迎えに行こうと離れから出ると
「隼斗、今からゆのちゃんのお迎え~?」
「あぁ」
庭先で母さんが声を掛けて来た。