家元の寵愛≪壱≫


俺らは炎天下の中で炉の灰の手入れをしている。


秋から春にかけて、毎日のように使用する炉。


この炉から灰を汲み出し、番茶を掛け天日干し。

乾いた灰にまた番茶を掛け天日干し。

数日間、この作業を繰り返す。



茶道教室を数市にもおよび複数抱えている香心流は

その作業だけでも一大行事と化している。


けれど、手入れを施した灰は、

ほんのりと色づき、そして仄かに香る。


苦労した分だけ、質の良い炉が出来上がり

そして、その炉で沸かされた湯は極上の湯となる。


ここ半月ほど毎日炎天下で作業したせいで

俺はすっかり小麦色の肌になった。






16時過ぎに自宅へ戻り、シャワーを浴びて

ゆのを迎えに行こうと離れから出ると



「隼斗、今からゆのちゃんのお迎え~?」

「あぁ」



庭先で母さんが声を掛けて来た。


< 78 / 450 >

この作品をシェア

pagetop