家元の寵愛≪壱≫
「疾しい事が無かったら見せられるだろ?」
「………」
「泣いてもムダだぞ?」
ゆのは瞳に涙をいっぱい浮かべて、俺を見上げた。
「見せられないんだろ?」
「…うぅっ…それは…」
大粒の涙がポロポロと…。
「勝手にしろ」
俺はゆのを部屋に残して、
愛車に飛び乗り、気分転換に車を走らせた。
帰宅したのは深夜。
自分でも大人げないと自覚している。
勝手に嫉妬して、八つ当たりしてる事も。
けれど、恋人同士ならまだしも
俺達は夫婦なんだ。
浮気は許されないし、我慢も出来ない。
こんな気持ちになったのも初めてだし、
どうしていいのか分からない。
ゆのと一緒にいたら、
彼女に八つ当たりしそうで怖い。
きっと彼女の顔を見たら、
暴言を吐いてしまうだろう。