家元の寵愛≪壱≫
今は頭と心を落ち着かせる為、
ゆのとは少し距離を置いた方が良い。
俺は離れには戻らず、母屋で朝を迎えた。
翌朝―――――
朝稽古用に着替える為に離れへ。
衣裳部屋の襖を開けると、
「隼斗さん」
「んッ?!」
ゆのは衣裳部屋で正座していた。
現在の時刻、午前3時40分。
まだ外は真っ暗だというのに…。
「お話があります」
「………」
俺はゆのを無視して、着替え始めると
ゆのは目を瞑って黙り込んだ。
俺はそのまま着替えを済ませ、
静かに部屋を出て行こうとすると、
「今夜、私にお時間を戴けませんか?」
「………」
ゆのは何が言いたいんだ?
弁解か? 謝罪か?
それとも……別れを切り出す気か?
俺は深呼吸して…。