運命の果ての恋〜歴史は変わらない〜
1月22日。
美夜は、龍馬と二日も会っておらず、不安になって旅館内をせかせかと歩きまわっていた。
「これでえいろー??」
龍馬の声が、ある部屋の障子ごしに聞こえた。
思わずいけないと思いつつも障子に小さな穴を開けて中を覗いた。
すると。
中には、龍馬を挟んで西郷と見知らぬ男が握手していた。
美夜の脳裏によぎったのは。
『薩長同盟』
なんと、美夜は薩長同盟の歴史的瞬間を見てしまったのだ。
「これで成立やき!!」
真剣だった龍馬の顔が緩んで、笑顔で言った時。
見知らぬ男の眉が、ピクリと動いてたと思ったら穴ごしなのに美夜と目があってしまった。
その瞳からはただならぬ殺気が出ていて、美夜が驚いて身をひくと。
ヒュン、と小刀の切っ先が空気を割く音がすると。
美夜の顔ギリギリを通って小刀は壁に突き刺さった。
えもいえぬ早業に、龍馬と西郷が目を見張っている中、見知らぬ男だけか口を開いた。
「わざとはずしたんですよ。出てきなさい」
凜とした声は静かに響き渡る。
少し、クセのある感じだった。
西郷や龍馬とはまた違った。
男の声に、ハッとなった龍馬は懐の拳銃を、西郷は帯刀していた刀の鯉口を切る。
龍馬が居るからどうにかなるだろう、と考えやけくその気持ちで三人の前に姿を現した。
「美…お龍!!」
いつものように、「美夜」と呼ぼうとした龍馬は急いで訂正する。
「お龍さん」
西郷もまた龍馬と同じように目をさらに見張って驚いている。
男だけが、だれだか分からず眉間に深いシワをよせた。
「おい、桂…お龍にどがぁこつあったらどうしゆう??おまんでもぶっ殺すぞ」
美夜に対して人一倍敏感な龍馬は、桂に殺気を向ける。
男の名は、桂だった。
桂は龍馬の殺気に一度ぞくりとした感覚を覚えた後、嫌味のように口を開く。
「のぞき見してるから悪いんだ」
美夜が想像していた桂とは真反対だった。
見た目は、キリッと二重。
女のように綺麗な黒髪はクセ一つ無く、目がねをかけていていかにも仕事ができそうな人。
舞妓にうつつをぬかしているだなんて、嘘の様だった。