運命の果ての恋〜歴史は変わらない〜
それから三人で温泉を巡りに巡った。
日にちにして、83もの日にちが過ぎ去った。
あまりにも長かった休暇に三人は満足し、美夜のお腹も随分と大きくなっていた。
今では、七ヶ月半程で、歩くのもしんどくなってくる時期だった。
そんな美夜を支えながら龍馬と重太郎は数週間居た旅館をあとにした。
もう夏に差し掛かってくるころで、美夜の大きいお腹では少し歩くだけで額に汗がじとりと滲む。
一旦京に戻るため、また京に行く薩摩藩の船に便乗する事になった。
船に乗り込んだ重太郎、船に乗り込もうとしている美夜を龍馬が支えていると。
龍馬がふと、遠くに見える店を目を細くして見つめた後、一人呟いた。
「あぁ…そういえば」
いつになく真剣な龍馬に、美夜は軽い返事をすると。
龍馬はいきなり美夜の腕を握る。
「…えっ!?」
いきなり腕を握られ美夜は肩を跳ねさせ、龍馬の顔を見ると。
「重太郎!!すまん、ちっくとあん店で銃ば買うて来るき!!」
突然の発言に、重太郎も間抜けた返事しかできないでいると。
重太郎の記憶の引き出しが、少し開かれる。
確かあの同盟が終わり、新撰組に奇襲をかけられ命からがら逃げ切った後の事。
眠り続ける美夜から視線を外す事はない龍馬が、一つだけ呟いた。
「…そういえば高杉さんからもらった…銃。無くしたき…」
そう言う瞳が完全に座っていて死んでいたのはどうでもいいのだが。
龍馬は銃を貰ってから帯刀もしないから、何故だと問うと「今の時代は銃じゃ!!」と言うだけだった。
その時は、まだ銃が無くなっていない頃。
すっかり新しい銃を買っていたとばかり思っていたのに。
「…ほいたら、おまん今日までずっと武器もなんも持っちょらんかったんかえ!?」
船の欄干に身を乗り出すが降りない様子の重太郎は声を張った。
「アハハ!!じき北辰一刀流桶町千葉道場を継ぎなさる重太郎様が居るき、なんちゃあ思とらんかったがよ!!」
「阿呆ッ!!いつおまんが命ば狙われとるか分からんのにな、おまんはいつも…ッ!!」
このままいくといつもの重太郎の説教モードに入ると思ったのか、龍馬はくるりと背中を向け、歩く速度を早くした。
美夜は苦笑いしながら、パタパタとついていく。
「だぁあ゙ーっ、やき、今から買うち言っとるろー!!説教ば後にしてつかぁさーーい!!!」
龍馬も、負けじと声を張る。
周りをすれ違う人は皆口元を抑えクスクス笑っていた。
美夜はそれに気づき、一気に恥ずかしくなるが二人を止める事なんて出来ない。
「船はもうすぐ出るき、早うしろ!!遅れたらおまんら置いてくがぞね!!」
「そん時は美夜ちゃん背中に乗せて海でも泳ぐき、心配しな!!!」
そう言い終わった龍馬はくるりと重太郎の方に向き、あっかんべーをする。
また前を向き直して、歩く。
「阿呆ォォォォオオオ!!!!!!!!」
という重太郎の怒号を背中に浴びながら、龍馬の目指している店へと二人は向かった。