運命の果ての恋〜歴史は変わらない〜
「あのさぁ、龍馬…」
西洋の装飾を施されたテーブルに突っ伏しながら、龍馬の名を呼んだ。
広めのテーブルなため、すぐ横で龍馬もテーブルに突っ伏していた。
ゆるゆると上下に揺らす波が少し心地好かった。
今、前から言おうと思っていた事を、美夜は言おうとした。
「私達の子供のね、名前…」
「ん、ほぅ言えば」
波に揺られ続け、突っ伏し続けていたせいか、二人の言葉はどこかゆっくりとしたトーンだった。
「幕末じゃ男か女かも分かんないからなぁ…」
そこから、心地好い沈黙が続く。
なんとも言えないような環境に包まれ、抱かれていた。
「…ほいたら、直寛と鈴音はどうかえ??」
「なお、ひろ…すずね…」
男と女、どちらが生まれてもいいように。
美夜の心に響いたのか、龍馬の考えた名前をゆっくりと復唱した。
ふと、美夜は現世で見かけた大河ドラマのワンシーンを思い出した。
そして、一人クスリ、と笑ったのだ。
その変化を龍馬が見逃すわけもなく、すかさず理由を聞くと。
「やっぱり…龍馬は変わってるなって。」
「…どういて??」
龍馬は突っ伏ししていた顔を上げ美夜の方を見るが見えるのは美夜の髪ばかり。
どんな表情をしているのか見たいのに、もどかしく感じる。
そんな事を思っている龍馬の事は知らず、美夜は言葉を紡いだ。
「だって…私が見てたドラマの男の人は皆、男を産めって言ってたからさ…なのに龍馬は男の子女の子、どっちでもいいよ〜って二つとも名前を考えてくれたから」
「どら、ま…??」
「…あ、ん〜歌舞伎のちょっと違うやつ…」
もちろん歌舞伎とドラマでは、まったく違うのだが。
美夜はこの時代のモノで例えるには歌舞伎しか出てこなかった。
「世継ぎの男も必要やけんど、華っちゅーのも必要じゃろー??泥だらけの男よりも凜と美しい女子がもう一人隣に居とおしたら、こじゃんとえぃ気分やき」
半ば冗談も混ぜながら、龍馬は川のようにすらすらと止まる事なく言葉を並べる。
「む、龍馬は私だけじゃないってわけ??」
少し拗ねた顔をした美夜は、ぐるりと龍馬の方を向いた。
急に見えた顔は、思っていたよりも近く。
刹那、龍馬の心臓に熱が染み渡るような刺激を受けるが、美夜は気づかず。
龍馬の頬を、軽くつねる。
「アハハハハ、許してふかぁふぁい〜」
「女の子だったら絶対そんな目で見ないでよね!!」
一体自分は美夜にどう思われているんだ、と思いつつも龍馬は口約束を交わす。
そんなイチャコラ雰囲気が流れている中に入り込めない薩摩藩士が、扉の前で愚図っていたのはまた別の話。