ある2人のある日常的なハロウィンの1日
「出来た!完璧ですね!」

「ん」

 部屋中に貼り付けた色紙たち。特に弟子の座る椅子の周りには、重点的に蜘蛛を貼った。
 テーブルにはクロスを敷き、盛り付けた色とりどりの食べ物が並ぶ。……あまいものばかりが並ぶ。

「……あまいものしかないのか?」

「ハロウィンですから」

 ハロウィンにかこつけて、自分の甘党を謳歌したいだけだろう。コイツは。

「……コーヒー」

 言ったところであまくないものが出てくる気がしない。取り敢えず飲み物だけでもあまくないものにする。

「ブラックですか?」

「……」

 キッと睨むと、肩をすくめてキッチンに消える。
 しばらく経って戻ってきた弟子の姿に目を見張った。

「……沸いたか?」

「違いますよ!黒猫です!」

 頭には黒い三角の耳。腰から床まで垂れた黒い尻尾。手にはもこもこした手袋をはめている。
 確かに黒猫だが。

「沸いたな」

「……」

 がくりとうなだれて、コーヒーのマグを渡してくる。
 心なしか、作り物の耳もうなだれて見える。

「仮装、か?」

「……それ以外になにがあるんですか」

 恨めしそうに見られても、突然猫耳を付けて現れる方が悪いと思うのだが。

「……師匠もやりましょう!」

「……なにを?」

「仮装ですよ!」

「断る」

「……」

「……」

 お互い黙ったままの硬直状態が続いたが、弟子が意を決したように私の腕をつかむ。

「師匠の分、ベッドのところに置いてありますから!」

 強引に自室の前まで連れて行かれる。
 リビングで待ってますから!と、走っていってしまう。

「……」

 残された私は、仕方なく自室に入ってベッドに歩み寄る。
 白いベッドシーツの上に、黒猫セットがよく映えていた。

「……」

< 2 / 3 >

この作品をシェア

pagetop