ヴァルキュリア イン キッチンⅡeternal
 吸い込まれるように刃が表面を滑っていく。


 全て向き終わると一条が満足そうに笑って、奈央の手元からリンゴを奪うと丸かじりした。




「もしかして、研いでくれたんですか?」




 あそこまで傷ついてしまったナイフを再調整するのはかなり難儀だと思い、奈央は買い替えを考えていた。



「そのナイフ、ざっと十年は使い込んでるよな?」




「はい……私が専門学校生だった時に母から譲り受けたものです」



 やはりな。


 というように一条は小さく笑う。




「俺が使っているのもそうだ。もう十年以上の付き合いだな」




 一条から手渡された時、あまりにも洗練されていたので始め自分のものだと思わずグリップを握ったが、その瞬間手に吸い付くような馴染みのある安定感を感じた。
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