ヴァルキュリア イン キッチンⅡeternal
「けど、お前がそれで納得してるんならもう何も言わない」



「……え?」



 一条の顔から怒りが消え失せ、代わりに切なげな表情を浮かべて奈央から身体を離すと、クリスマスレシピを手渡した。



「レシピの案はそれでいい。これは仕事の話だ……コンテストまで気を抜くなよ、集中しろ」



「……」



「コンテスト、楽しみにしてる」



「あ、待っ……」



 一条は奈央の呼び止めにも応じず、エレベーターに乗り込んでしまった。



『コンテスト、楽しみにしてる』



 この言葉が本来奈央にとってどんなに期待を膨らませるものだっただろうか。


 同じ言葉でも一条の最後に見せた物憂げな表情から発せられたものは、ひどく奈央の胸に突き刺さった。





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