ヴァルキュリア イン キッチンⅡeternal
 奈央はテーブルに着くと、両手を合わせてフォークで鹿肉を刺す。

 口に入れると我ながら上出来だと思った。

 弾力のある肉からジューシーな肉汁が押し出されて口内に広がった。


「おいしい……一条さん、おいし……い」



 急に瞼が熱くなってきて視界がぼやける。


 料理はこんなに美味しいのに、満たされない自分の心に泣けてくる。


 本当は今夜、一条をマンションに呼んでコンテストに出すメニューをもてなすつもりだった。



「一条……さん……どうして、うまくいかないの?」



 しょっぱい涙の味が混ざって、切ない思いに胸が締め付けられる。


 奈央は誰もいない部屋で声を押し殺して泣いた。


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