ヴァルキュリア イン キッチンⅡeternal
 奈央はしばらく考えて、通話ボタンを押した。


「……はい」


「あ、春日奈央様の携帯番号でよろしいでしょうか?」


 紳士的な口調で聞きなれない男性の声に奈央は思わず身構えた。


「そうですけど……」


「私、アルバンホテルの者ですが、本日参加いただくクリスマスコンテストの件でお電話させていただいたのですが……」



 アルバンホテル、クリスマスコンテストと聞いて奈央はハッとなった。


 コンテストの関係者からの電話だとようやく理解する。


「ローザンホテル様の参加は連名でよろしいのですよね? 一条司様と春日奈央様で……」


「はい、そうです」



「先日、一条様の方でこちらに参加登録をしていただいたのですが、春日様のご本人確認が取れていませんので、コンテストが始まる前にこちらにてお手続きをお願いしたいのですが」


 そういえば、参加手続きの日、奈央は忙しくキッチンから離れられなかった。


 代わりに一条に頼んで手続きをしに行ってもらったのを思い出した。



「わかりました、午前中にそちらにお伺いしますので」



「それではお待ちしております」



 本人確認? そんなものがコンテスト出場に必要なのかと、一瞬疑問に思ったが有名どころのシェフがこぞって揃う場所だ、きっとセキュリティの関係で必要なのだろうと奈央は深く考えるのをやめた。
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