ヴァルキュリア イン キッチンⅡeternal
「……」


「あの子、どうしても諦められなかったんだってさ。お前に認められた自分のレシピがこのままお蔵入りになるのが悔しいって、この企画を俺のところに持ってきたんだ」



「いつ!?」



「えーっと、お前が熱でぶっ倒れてる間に……だったかな」



 ホールの視線を向けると、出入り口の外までこのメニュー目当てに来た客がズラリと列を成していた。




「大盛況だよ。この企画のおかげでうちも懐あったかく穏和に年明けが迎えられそうだ。言っておくけど、勝手なことしたってあの子のこと怒ったりしたら……わかってんだろうな?」




 穏やかな表情が一気に変貌したかと思うと、息を呑むほどの気迫に一条は思わずたじろいだ。




 支配人は視線を逸らす一条に小さく笑いかけ、そして肩にそっと手を乗せたかと思うと、そのままエレベーターホールへ向かっていった。




「……ったく、怖い顔すんなよ」




 この企画を許可してくれた感謝の気持ちを、言葉にするのを失念していた。



 もう一度エレベーターホールへ向き直ったが、すでに乗りこんでしまった後のようだった。


 けれど、それを今更口にするのもなんだかむず痒いと思ってしまう。




 肩を落としてため息をつくと、気を取り直してキッチン向かおうとしたその時―――。
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