ヴァルキュリア イン キッチンⅡeternal
 一条に認められたものをコンテストに出す。


 そのために毎日馬車馬のような日々を送った。


 それを紗矢子によって全て奪われたと思うと遺憾に思わないわけがない。




「……ですから、紗矢子に代わっておふたりにお詫びしようと思って伺ったんです」



 斎賀はそういうと深々と奈央と一条の前で頭を下げた。




「え? えっと、そんな、いいんですよ、そんな……頭上げてください」




「ふーん、あんた、神崎の代わりだって言うんなら……奈央、お前一発殴っとくか?」




 一条が片目を瞑って奈央に向き直る。


 うっすら笑っている口元から悪戯めいたものを感じて、奈央は慌てて首を振った。




「ななななんてこと言うんですか!?」




「ぷっ! 嘘に決まってるだろ」




「も、もう! こんな時に変な冗談言わないでください!」



 真っ赤になって俯くと、一条が子供を宥めるように頭にぽんぽんと笑いながら奈央の頭に手を乗せた。



 その様子を見ていた斎賀が堪えきれずに小さく吹き出した。




「ああ、すみません。つい、本当にお似合いなおふたりですね……今日はもう一つ、あなたにお渡ししたいものがあるんです」




 そう言って斎賀は自分の胸のポケットから小さな猫のマスコットを取り出して、奈央の前に差し出した。



「あ……そ、それは」




 忘れるわけがなかった。



 奈央の脳内フラッシュバックが再生されると、中学の時に遡る。



 その猫のマスコットは、確か苦手な科目の試験勉強を紗矢子に手伝ってもらったお礼に奈央が作ってプレゼントしたものだった。

< 314 / 326 >

この作品をシェア

pagetop