ヴｧﾙｷｭﾘｱ ｲﾝ ｷｯﾁﾝⅡeternal
　1130号の客室ドアの目の前で、奈央はひとり立ち尽くしていた。



　今まで気づかなかったが、この部屋は最高級のスイートルームになっている。


　どうして自分がここへ呼び出されたのか皆目見当もつかない。




　仕事が終わって私服に着替えると、急に胸が高鳴り始めて鏡の前で思わずうっすらと色づいたルージュを唇に這わせてしまった。


　好きな人にはよく見せたいというのは、きっと女の性であり本能なのだろう。



　深呼吸をし、ドアをノックして中へ恐る恐る入っていく。



「い、一条さん？」



　奈央は部屋に入ると、テーブルに並べられた豪華な食事と、ゆらゆらと小さく焔を揺らしている蝋燭に目を瞠った。



「ああ、来たか」



　キッチンの奥から声がする。


　今夜は夜景がやけに煌めいて見えると思ったら、ダイニングの照明が落とされて薄ら暗さが夜景の光を際立たせていることに気づいた。



　窓の外には不夜城の夜景がパノラマで広がっている。
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