ヴァルキュリア イン キッチンⅡeternal
「これは……」


 いまだ状況を把握しきれていない様子であたりを見回していると、目の前に一条が歩み寄ってきた。



「ここ、うちのホテルで一番上等の部屋なんだ。兄貴からの選別だってさ」



「え?! 支配人から? どうして?」



「……ったく、勝手な企画立てやがって……と言いたいところだが、今回はお前に助けられたな」



 やはり勝手に企画を立てたことに腑に落ちないでいるのだろうかと奈央は思い、伏し目がちに視線を落とした。



「すみません、勝手なことして……でも、どうしてもあのメニューを諦められなくて……それに、一条さんは仕事も恋愛も両方手に入れることはできなかったって言ってましたけど、私たちは結局手に入れることができたんですよ」



「え?」



「あのメニューも一条さんの目に狂いがなかったから実現できたし、コンテストで出せなくても別の形で人に出すことはできます。私は一条さんの信頼を裏切りたくなかった。でも、やっぱり大成功だったでしょ? あんなにお客さん喜んでくれたし、斎賀さんだって絶賛してま―――」





 奈央の言葉が言い終わるか終わらないかのうちに奈央は一条の力強い腕に抱きすくめられていた。






「まったく、お前は……どこまで俺を骨抜きにすれば気が済むんだ」




「一条さん……ほら、仕事も恋愛も両方手に入った」


「ああ」



 奈央が一条を見上げながら微笑むと、耐え切れなくなったかのように、震える吐息とともに口づけが落とされた。
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