邂×逅
出会い
1・出会い
結局、そのあと、私はお屋敷に運び込まれ看護されたらしい。
うつらうつらとしていたので、寝ぼけ眼には、白衣の看護士さんとかお医者様とかは、全然見えなくて、かわりに重そうな着物をきた女の人や、髭をはやしたおじいちゃんとかああ、あとあの男の人と女の子も来てくれた。
かわるがわるくるその面々に、私は早く変な夢が覚めないかな、と悠長に構えていた。
これが、夢ではないと悟ったのは、何日か経ったときだった。
目がさめている時間がだんだん多くなってきて、女の人たちが持ってきてくれるお粥も喉を通るようになったころ、ふと気になって、一番近くにいる女の人に聞いてみた。
「こちらはどなた様のお屋敷でしょうか。」と。
周りにいた女の人たちは、私が口を聞いたことに驚き、助けてくれた男の人を連れてきた。
「和泉殿、もうお体はよろしいのか。」
と、とても慌てた様子で駆けつけてくれた。
その姿を見てまた思う、ここは私のいたところじゃない、と。
「はい、だいぶ楽に物も食べられるようになりました。ありがとうございます。」
と素直にお礼を述べた。
「そうか、それは良かった、一時はどうなるとこかと思ったが悪運の強いお方だ。」
とても安心したように、朗らかに笑う。
この人、よく見ると美丈夫なひとだ。
着ている物もなんていうか、センスかいいっていうのかな、どっちにしても着物だから私にはわかんないけれど、でも雅やかっていうのかな、なんか華がある感じ。
周りの女の人も、急に誇らしげに彼を見ている。
そんな人に心配されるのは嫌じゃない、嬉しいくらい。
「あの、それで、こうして長々とお世話になっているにも関わらず、私こちらのお屋敷どなた様か知りませんでしたので、いま、彼女たちにたずねたのです。」
「ああ、こちらは、恐れ多くも摂関家の流れを引く大納言藤原道長のお屋敷です。」
摂関家。大納言家。
こんなワード私の脳には無いけど、なんとなく名門のいいところだって分かった。
「ところで、和泉殿、このような大怪我をされて家の方は、たいそうご心配されているかと思われる。なんとかご連絡をしたいのだが・・・・」
家の人、そうね、心配しているはずだわ。
ええと、わたしは和泉 佳乃で、ええと性別は女で・・・・。
・・・・わたしどこから来たんだっけ。
思い出せない。
えっと、年は16で、それから、それから?
思い出せない。
ううん、憶えていない。
その優雅な男の人は、黙り込んだ私を察し、
「人それぞれ、事情はありますしね。何も今すぐに邸をでていけ、というわけでもありませんしね。」
いまは、お体の療養が先決ですから。
そういってくれた。
「そろそろ出仕しなくてはならぬな、御前失礼。」
そういって、立ち上がった。
知っている人がいなくなってしまうので、すこし不安になっていたら去り際に彼は、「和泉殿、私の名は藤原忠泰と申します。」
この邸で困ったことがあれば、なんなりとご相談下さい。
といって出て行った。
「ありがとう。」
かぼそい声で答えた。
それから、少し考えてみた。
私のこと。
こんな怪我をしたから、その後遺症かしら、とか、もしかして記憶喪失ってやつなの?とか。
そうだ、たしかあの庭にいたときに私、リュックをしょってたわ。
荷物をみれば、なにか分かるかもしれない。
そばにいる2、3人の女性で一番近くにいる人に、声をかけた。
「ねえ、私の荷物があると思うんだけど。」
その女性は、私の看護をいつも見ていてくれた人で、目を覚ますといつもこの人の、心配そうな顔があった。
声をかけられて、驚いたのか、私の顔をじっと見つめている。
そして、みひらいた目からぽろぽろと涙が、こぼれた。
私はぎょっとして、思わず、起き上がってしまった。
その人は、布団につっぷしておいおい泣いている。
時々泣き声に混じって、「由希さま、江夏がふがいないばっかりに・・・」とかいっているのが聞こえたけれど、何の事か見当もつかない。
驚いていると、側の女の人が、なだめるように言った。
「江夏さん、和泉さまの御前ですわ、気を確かにもって。
結局、そのあと、私はお屋敷に運び込まれ看護されたらしい。
うつらうつらとしていたので、寝ぼけ眼には、白衣の看護士さんとかお医者様とかは、全然見えなくて、かわりに重そうな着物をきた女の人や、髭をはやしたおじいちゃんとかああ、あとあの男の人と女の子も来てくれた。
かわるがわるくるその面々に、私は早く変な夢が覚めないかな、と悠長に構えていた。
これが、夢ではないと悟ったのは、何日か経ったときだった。
目がさめている時間がだんだん多くなってきて、女の人たちが持ってきてくれるお粥も喉を通るようになったころ、ふと気になって、一番近くにいる女の人に聞いてみた。
「こちらはどなた様のお屋敷でしょうか。」と。
周りにいた女の人たちは、私が口を聞いたことに驚き、助けてくれた男の人を連れてきた。
「和泉殿、もうお体はよろしいのか。」
と、とても慌てた様子で駆けつけてくれた。
その姿を見てまた思う、ここは私のいたところじゃない、と。
「はい、だいぶ楽に物も食べられるようになりました。ありがとうございます。」
と素直にお礼を述べた。
「そうか、それは良かった、一時はどうなるとこかと思ったが悪運の強いお方だ。」
とても安心したように、朗らかに笑う。
この人、よく見ると美丈夫なひとだ。
着ている物もなんていうか、センスかいいっていうのかな、どっちにしても着物だから私にはわかんないけれど、でも雅やかっていうのかな、なんか華がある感じ。
周りの女の人も、急に誇らしげに彼を見ている。
そんな人に心配されるのは嫌じゃない、嬉しいくらい。
「あの、それで、こうして長々とお世話になっているにも関わらず、私こちらのお屋敷どなた様か知りませんでしたので、いま、彼女たちにたずねたのです。」
「ああ、こちらは、恐れ多くも摂関家の流れを引く大納言藤原道長のお屋敷です。」
摂関家。大納言家。
こんなワード私の脳には無いけど、なんとなく名門のいいところだって分かった。
「ところで、和泉殿、このような大怪我をされて家の方は、たいそうご心配されているかと思われる。なんとかご連絡をしたいのだが・・・・」
家の人、そうね、心配しているはずだわ。
ええと、わたしは和泉 佳乃で、ええと性別は女で・・・・。
・・・・わたしどこから来たんだっけ。
思い出せない。
えっと、年は16で、それから、それから?
思い出せない。
ううん、憶えていない。
その優雅な男の人は、黙り込んだ私を察し、
「人それぞれ、事情はありますしね。何も今すぐに邸をでていけ、というわけでもありませんしね。」
いまは、お体の療養が先決ですから。
そういってくれた。
「そろそろ出仕しなくてはならぬな、御前失礼。」
そういって、立ち上がった。
知っている人がいなくなってしまうので、すこし不安になっていたら去り際に彼は、「和泉殿、私の名は藤原忠泰と申します。」
この邸で困ったことがあれば、なんなりとご相談下さい。
といって出て行った。
「ありがとう。」
かぼそい声で答えた。
それから、少し考えてみた。
私のこと。
こんな怪我をしたから、その後遺症かしら、とか、もしかして記憶喪失ってやつなの?とか。
そうだ、たしかあの庭にいたときに私、リュックをしょってたわ。
荷物をみれば、なにか分かるかもしれない。
そばにいる2、3人の女性で一番近くにいる人に、声をかけた。
「ねえ、私の荷物があると思うんだけど。」
その女性は、私の看護をいつも見ていてくれた人で、目を覚ますといつもこの人の、心配そうな顔があった。
声をかけられて、驚いたのか、私の顔をじっと見つめている。
そして、みひらいた目からぽろぽろと涙が、こぼれた。
私はぎょっとして、思わず、起き上がってしまった。
その人は、布団につっぷしておいおい泣いている。
時々泣き声に混じって、「由希さま、江夏がふがいないばっかりに・・・」とかいっているのが聞こえたけれど、何の事か見当もつかない。
驚いていると、側の女の人が、なだめるように言った。
「江夏さん、和泉さまの御前ですわ、気を確かにもって。