邂×逅
江夏と呼ばれた人は、袖で涙を拭きながら「失礼しましたわ。和泉さま、相模さん。もう大丈夫です。」
相模さんと呼ばれた人は、ほっとしたように、荷物は私がお持ちしますわ。と言って部屋を出て行った。
しばらくして、相模さんが戻ってきた。
私の赤いリュックを持って。
「ありがとう。」
「いいえ、それより和泉さま、お荷物たいそう重うございましたが、何がはいっておりますの?」
と聞かれた。
たぶん、まださっきの江夏さんの取り乱した空気が、気まずさを残していたので、場を
和ませるつもりだと思う。
何が入っているかなんて、今の私には見当も付かない。
でも、このリュックは私の使い慣れたものだ。
その証拠に、お気に入りのディズニーキャラクターのキーホルダーが付いている。
ファスナーを下ろして、中身を確かめる。
なかには、ノートが3冊に、数学の教科書と問題集、現国の教科書に、英語の問題集。
化粧ポーチに、ペンケース、マンガが2冊に、ラッピングされたプレゼントに学生証、お財布が入っていた。
布団の上に、それぞれ並べてみる。
リュックから取り出すたびに、江夏さんや相模さんが「まあ珍しい、これは何ですの?」とか聞かれたので、ひとつづつ説明してあげた。
これはノートとか、教科書とか、説明しながらこんな事は、覚えているんだなって思いながら。
学生証には東聖学園高等部1年B組 和泉佳乃とあった。
この学校の名前には覚えがあった。
そうよ。私の通っていた学校じゃない。
猛勉強して、頑張って、頑張って入った学校。
おかげで、トップで入学できて、お父さんもお母さんも喜んでいたっけ。
でも、新生活はあんまり楽しくなかった。
新しい制服に、新しい友達、私立ならではのカリキュラムとかあって、充実していたけれど。
ふと、二人の視線が気になって顔を上げた。
懐かしそうな、寂しそうな顔をしている。
「ね、さっき言っていた由希ってだれ?」
と思い切って、聞いてみた。
江夏さんも、相模さんもはっと顔をこわばらせ互いに見合った。
二人らしくなく、もごもごと口の中でなにか呟き、「あの、その」を連発していてどうもはっきりしない。
しびれをきらしそうになって、江夏さんがようやく思い切ったように口を開いた。
「和泉さま、申し訳ありませんが、私たちからは申し上げられませんわ。忠泰さまにお伺いされますようお願いいたします。」といった。
なんとなく釈然としなかったけれど、事情は人それぞれだもんね。
二人に気を使わせないように、「分かったわ。」といって、また横になった。
目をつむると、深い眠りに誘われた。
背中がまだ痛かったけれど、些細な痛みを共にしても人間って眠れるのね、なんて悠長に考えていた。
そして、夢を見た。
とても、幸福な夢。
父さんと母さんがいる。
私は、まだ小さくて、二人と手を繋いで花畑を歩いている。
とてもとても、幸せで嬉しくって、笑い声を上げている。
でも、誰かが呼びかけてくる。
「佳乃ちゃん、そっちじゃない。こっちだ。こっちだよ。」
優しい優しい声。
誰?あなたは誰?いったい誰なの?
どうしてこんなに悲しい気持ちになるの?
どうしてこんなに涙が溢れるの?
どうして・・・・?
悲しいおもいでいっぱいになって目がさめると、忠泰さんがいた。
「和泉どの、気分はどうですか?」
優しく笑ってくれる。
「なんだか、よくわからないけれど、悲しい気分だわ。涙がとまらないの。へんね、どうしたのかしら。」
「悲しい夢を見たのですね。大丈夫。心配することは何も無い。夢の思いがまだ体に残っているせいです。よっぽど悲しい夢だったのだね。可哀想に。」
ゆっくり私の背中をなでてくれる。
傷がまだ痛むけれど、そうじゃなくて。
切ない、言いようのない思いがこみ上げてきて、子供みたいに泣いた。
だって、ここの人は皆優しいのだもの。
私はここの人間じゃないのに。
うれしくてかなしくて、私どうにかなっちゃったの。
だったら、すこしくらい甘えてもいいよね?
頼ってしまっても、いいよね?
今だけ、すぐに元気になるから、今だけはこうしていて欲しいの。
安心できる胸の中で、気が済むまで泣いていたいの。
お願い、今だけは・・・・。
相模さんと呼ばれた人は、ほっとしたように、荷物は私がお持ちしますわ。と言って部屋を出て行った。
しばらくして、相模さんが戻ってきた。
私の赤いリュックを持って。
「ありがとう。」
「いいえ、それより和泉さま、お荷物たいそう重うございましたが、何がはいっておりますの?」
と聞かれた。
たぶん、まださっきの江夏さんの取り乱した空気が、気まずさを残していたので、場を
和ませるつもりだと思う。
何が入っているかなんて、今の私には見当も付かない。
でも、このリュックは私の使い慣れたものだ。
その証拠に、お気に入りのディズニーキャラクターのキーホルダーが付いている。
ファスナーを下ろして、中身を確かめる。
なかには、ノートが3冊に、数学の教科書と問題集、現国の教科書に、英語の問題集。
化粧ポーチに、ペンケース、マンガが2冊に、ラッピングされたプレゼントに学生証、お財布が入っていた。
布団の上に、それぞれ並べてみる。
リュックから取り出すたびに、江夏さんや相模さんが「まあ珍しい、これは何ですの?」とか聞かれたので、ひとつづつ説明してあげた。
これはノートとか、教科書とか、説明しながらこんな事は、覚えているんだなって思いながら。
学生証には東聖学園高等部1年B組 和泉佳乃とあった。
この学校の名前には覚えがあった。
そうよ。私の通っていた学校じゃない。
猛勉強して、頑張って、頑張って入った学校。
おかげで、トップで入学できて、お父さんもお母さんも喜んでいたっけ。
でも、新生活はあんまり楽しくなかった。
新しい制服に、新しい友達、私立ならではのカリキュラムとかあって、充実していたけれど。
ふと、二人の視線が気になって顔を上げた。
懐かしそうな、寂しそうな顔をしている。
「ね、さっき言っていた由希ってだれ?」
と思い切って、聞いてみた。
江夏さんも、相模さんもはっと顔をこわばらせ互いに見合った。
二人らしくなく、もごもごと口の中でなにか呟き、「あの、その」を連発していてどうもはっきりしない。
しびれをきらしそうになって、江夏さんがようやく思い切ったように口を開いた。
「和泉さま、申し訳ありませんが、私たちからは申し上げられませんわ。忠泰さまにお伺いされますようお願いいたします。」といった。
なんとなく釈然としなかったけれど、事情は人それぞれだもんね。
二人に気を使わせないように、「分かったわ。」といって、また横になった。
目をつむると、深い眠りに誘われた。
背中がまだ痛かったけれど、些細な痛みを共にしても人間って眠れるのね、なんて悠長に考えていた。
そして、夢を見た。
とても、幸福な夢。
父さんと母さんがいる。
私は、まだ小さくて、二人と手を繋いで花畑を歩いている。
とてもとても、幸せで嬉しくって、笑い声を上げている。
でも、誰かが呼びかけてくる。
「佳乃ちゃん、そっちじゃない。こっちだ。こっちだよ。」
優しい優しい声。
誰?あなたは誰?いったい誰なの?
どうしてこんなに悲しい気持ちになるの?
どうしてこんなに涙が溢れるの?
どうして・・・・?
悲しいおもいでいっぱいになって目がさめると、忠泰さんがいた。
「和泉どの、気分はどうですか?」
優しく笑ってくれる。
「なんだか、よくわからないけれど、悲しい気分だわ。涙がとまらないの。へんね、どうしたのかしら。」
「悲しい夢を見たのですね。大丈夫。心配することは何も無い。夢の思いがまだ体に残っているせいです。よっぽど悲しい夢だったのだね。可哀想に。」
ゆっくり私の背中をなでてくれる。
傷がまだ痛むけれど、そうじゃなくて。
切ない、言いようのない思いがこみ上げてきて、子供みたいに泣いた。
だって、ここの人は皆優しいのだもの。
私はここの人間じゃないのに。
うれしくてかなしくて、私どうにかなっちゃったの。
だったら、すこしくらい甘えてもいいよね?
頼ってしまっても、いいよね?
今だけ、すぐに元気になるから、今だけはこうしていて欲しいの。
安心できる胸の中で、気が済むまで泣いていたいの。
お願い、今だけは・・・・。