Dearest
「もう!サミュエルは方向音痴なんだから迷子になっちゃったらどうするのよ!!」


「大丈夫だって。あいつ頭だけはいいから、迷子になってもそれなりに自分で対処するって」



アシュリーとレオンは、テレビを見ながらおやつを頬張っていた。




「あたしスーパーに買い物行くついでにサミュエルも迎えに行ってくるから、留守番しててね」


「はーいっ」



元気よく返事をするレオンとは反対に、アシュリーはひらひらと左手を振るだけ。



そんな2人を見ながらアキは外に出掛けた。




「レオンは素直でいい子なのに、アシュリーときたら。…まぁアシュリーもあれでいいところもあるんだけどね」



そんな事を思って歩いていると、公園の隅に屈んでいるサミュエルを見つけた。




「サミュエル?何してるの?」



アキが話しかけると、サミュエルはビクッと肩を揺らした。




「あっ…アキさんでしたか。見て下さい。にゃんこです」



サミュエルが指差す方を見ると、猫の親子が寄り添う姿があった。




「可愛いね」

「羨ましいです。…甘えられるお母さんがいて、兄弟がいるのが」


サミュエルは猫を見ながらポツリと呟いた。


その表情はどことなく寂しげだった。




「サミュエルにもいるじゃない。ラヴというお父さんもアシュリーとレオンっていうお兄ちゃんも。…それにあたしというお母さんもね。
サミュエルはあたしの可愛い大切な息子よ?」



アキがそう言うと、サミュエルはアキを見つめた。




「お母さん…」



そう呟いたサミュエルにアキは一瞬驚いたが、すぐに笑顔を向けた。




「何?サミュエル」

「…呼んでみただけです」

「ふふっ。サミュエル、お母さんと一緒に帰ろ?」

「はい」



アキとサミュエルは手をつないで買い物へ向かった。
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