桜麗の社の影狐
「こら二人とも・・・困りましたね」
「ははは・・・本当におぬし達は仲が良いのう。」
「彩輝様!」
私達がもめていると、狩衣を纏い、烏帽子を身に着けた男性が現れた。神社の主である神・彩輝(サイキ)様だ。
「ぬ・・・主様・・・!」
紅蓮が慌てて頭を下げる。
「初めての下界は楽しかったか?結羅。」
彩輝様が笑顔で問うてくる。
「彩輝様・・・」
彩輝様は笑顔で続ける。
「今日は特別な祭りの夜じゃ。明々の光に誘われるのも仕方がないと言うもの。のう御榊。」
彩輝様の言葉に、御榊さんは戸惑った顔をする。
「随分と甘いことを・・・これでは示しがつきませぬが?」
御榊さんの言葉に、今度は真面目な顔をして答える。
「・・・確かに、言い付けを破るのは良くない。」
うぅ・・・
「・・・だがまあ、おぬし達も十分わかっているようじゃからのう。」
彩輝様は元の笑顔で締める。
ふぅ。
「紅蓮、なんか助かっちゃったみたいだね。」
こそっと囁いてみる。
「うう・・・マジで尻尾抜かれると思った・・・」
しおしおとした様子で紅蓮が言葉を返す。
そんな私達を見て、彩輝様は楽しそうに笑う。
「楽しかったようじゃのぅ。」
この言葉に今度は自信を持って笑顔で答える。
「はい、とても!」
だが御榊さんは、渋い顔をして溜め息を吐く。が、気にしない。
「・・・どうせなら、彩輝様とも一緒に行きたかったなぁ」
私の呟きに、彩輝様は一瞬きょとんとする。
「む?そうじゃのう。先に教えておいてくれればわしも一緒に抜け出したんじゃが。」
「じゃあ次は先に誘いますから忘れないでくださいね~」
こんな私達のやり取りを見て、御榊さんは先程より重い溜め息を吐く。
「ハァ・・・」
それを見て、紅蓮は苦笑する。
「すごい溜め息重いですよ御榊様。」
「まったく彩輝様は結羅さんに甘くて困る・・・」
「・・・御榊様もじゅーぶんかと。」
「何か言いましたか?」
「いえー」

「あ、そういえばこれ」
そう言って、私は彩輝様に祭りで拾った風車を差し出す。
「・・・風車?」
「祭りで拾ったんです。良かったら彩輝様、貰ってくれませんか?これ、彩輝様の好きな紅葉だって聞いたから。拾ったやつで、申し訳ないんですけど・・・」
私の言葉を聞くと、彩輝様は嬉しそうな顔をする。
「いや、構わぬ。綺麗じゃ。ありがとう結羅。大事にするぞ」
彩輝様に風車を手渡した後、ふと気になったことを聞いてみる。
「・・・そういえば、この風車を拾ったときに不思議な人に会いました。」
「ふしぎ・・・?」
「はい。他の人々とは違ったって言うか・・・すごく知ってる気がして。」
「・・・ほう。」
彩輝様が薄く口元に笑みを浮かべる。
「あ、あともう一人いたな。そっちはなんだかすごくヘンな人で、でもなんだか気になるかもっていう・・・」
「そうか結羅、見付けたか。」
「え・・・?」
「・・・これは存外良い機会だったのかもしれぬな。」
「あの、彩輝様、それってどういう・・・」
「のう結羅、その二人にもう一度会いたいか?」
「え・・・」
「もう一度山を降りて、その者達と再び会いたいと、そう思うか?」
風車に息を吹きかけながら、彩輝様が訊ねてくる。
「・・・はい、会いたいです。」
「・・・そうか。ならば結羅、その者達と仲良うなれ。・・・そして此処へ連れて来い。・・・お前にとってその二人が本当に特別なら、いずれお前はその者達を必要とするじゃろう。そのときの為に、準備をしようではないか。」
「準備・・・?一体あの人達に会って何の準備をするのですか?」
今度は御榊さんと紅蓮の方を向いて言葉続ける。
「良いな、御榊、紅蓮。」
「御榊さん、紅蓮、どういうこと?」
「致し方ありませぬな。」
「・・・ま、そんな気はしてたんだよ俺は。」
再び質問をする間を与えずに、彩輝様が口を開く。
そして、荘厳に言葉を紡ぐ。
「結羅、お前に命ず。山を降り、人々の街へ行き『宴』の支度をするように。」
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