桜麗の社の影狐
「・・・案内するとは言ったが紹介するとは言っていない。」
「え?」
「・・・生憎、気軽に話し掛けられる関係ではなくてな。」
キリッと答える。
それに対し、紅蓮が呆れたように言葉を返す。
「変なとこで引っ込み思案だなテメー・・・」
彼はもっともと言うように言葉を返す。
「人見知りするんだ。」
紅蓮は彼の言葉に更に呆れたように言葉を返す。
「人見知り?顔に似合わないこと言うんじゃねぇよ・・・」
紅蓮がそう返すと彼はじっと紅蓮を見つめる。
そして紅蓮ははっとする。
「・・・小動物、貴様喋っているな・・・?」
彼の言葉に紅蓮はとても焦ってへんな言葉を返す。
「いっいや喋ってねーぞ!わんわんわん!なっ結羅!」
「紅蓮・・・」
そして彼は一人で合点する。
「そうか。それが結羅とやら・・・貴様の使い魔ということか。成る程な!」
「え~勝手に納得して頷いてるんだけどこの人・・・」
「誰が『それ』で使い魔だこらーッ!!」
彼と紅蓮がぐぎぎぎぎっと喧嘩しているのは気にせずに、自分の気になることを呟く。
「それにしても・・・店の中で一人で何してるのかな?」
私の呟きに、紅蓮と喧嘩しながら彼が答える。
「さあな。ただ平日は学校が終わると店番をしているようだ。」
彼の言葉に紅蓮は軽蔑の眼差しを向ける。
「お前ってストーカー・・・」
紅蓮の言葉に対し、やはりさらっと答える。
「そんなことはない。ただたまたま気にしている上たまたま知っているだけだ。」
「うーん・・・私ちょっと話してくるね。」
「な!?」
「おい結羅!!」
二人の言葉は気にせずに、『開運堂』と看板のでている店の古い木のドアを開ける。
* * *
相変わらず、客は来ない。
一つ溜め息を吐き、空木 紅葉(クレハ)は店番をしながら昨日祭りで会った少女のことを考える。
綺麗なひとだった。
俺が風車の前に立っていたとき、澄んだ美しい、凛とした女のひとの声が聞こえた。
『ねえ、きみ』と。
声のした方を見ると、自分と同じか少し年下だと思われる少女が、飾られているものと同じ朱の風車を差し出してきた。そして俺の目を見て『これ、落ちてたよ』と言う。
そして咄嗟に答えた。『俺んじゃねーよ』と。
そんな言葉に気分を害したようもなく、彼女は可愛く笑い、風車に息を吹きかけている。
彼女を正面から見てみる。
まず目がいったのは、彼女の目だった。たれ目で濃い赤色をした目だった。だが感じたものは、それだけではなかった。
彼女の目は美しいだけでなく、まるで世界中の悲しみを全て知っているかのような、そんな目をしていた。
引き込まれそうになる。
再び彼女の全身を見る。
頭には桜をモチーフにしたのだろうか、可愛らしいピンク色をした髪飾りをつけている。髪は栗色をして、ゆるくカールをしていて、整った二重の双眸に、形のよい美鼻梁と唇をしている。右目の下には泣黶があり、彼女の華奢な肩には白い小動物も乗っている。
そんな彼女は、平安時代のひとの着る狩衣と指貫ような装いをしていた。
目を見張るほど美しいひとだった。
それに、引っ掛かるものがあった。
どこかで会ったような気がするのだ。
昔から知っているような、とても懐かしい・・・
不意に、店のドアが開く。
母に教えられた通り、『おいでませ、開運堂』と言う。
入ってきた客はなんと昨日の少女だった。
「こんばんは。」
相変わらず綺麗な声で微笑を浮かべ、俺に話し掛けてくる。
「お前は昨日の・・・」
「何してるの?こんなとこで。」
彼女は首をかしげて問いかけてくる。
「・・・別に・・・そっちこそ」
俺がそう答えると、彼女は俺の目を見て答える。
「私は君に会いに来たの。」
いくらか艶やかな声だった。
「・・・は?何で?何か用?」
・・・怪しい。
「理由・・・は会いたかったから、かな?」
「なにそれ意味分かんないんだけど。」
俺の言葉に、薄く微笑んで答える。
「だってなんか君、知ってる感じがするんだよね。」
「『知ってる』?」
「うん。昨日も思ったんだけど、昔会ったことがあるような・・・なんとなくなんだけどね。」
やっぱり怪しい。
俺が溜め息を吐いて下を向くと、心配そうに覗きこんでくる。
「うつき~、どしたの~?」
可愛い、と思ったことは否定しない。だがやはり怪しい。
「・・・・・はぁ・・・・・ほんと怪しいんだけど。」
「えっ」
「人をたぶらかすときの常套句だろ『会ったことがある気がする』なんて。」
溜め息混じりにそう答えると、彼女は少し驚いたように答える。
「えっそうなの!?」
・・・こいつ可愛いな。
「で?俺に会ってどうしたいんだよ。」
俺がさらっと問いかけると、彼女はズバッと答える。
「話をするとか、仲良くなりたい・・・かな?」
「怪しすぎる。」
「そうかなぁ~?」
「・・・そうだよ。」
俺がそう答えると、彼女は少し悲しそうな顔をする。
「私・・・そんなに怪しいかなぁ・・・」
涙目でそれを言われると、流石の俺も焦る。
「あーえっと怪しいとか怪しくないとかは置いといてさ・・・なんか話したいんだろ?こっち上がってこいよ。」
俺のいるカウンターより奥の場所は座敷になっていて、普段客は入れないようになっている。
「えっ・・・空木、お喋りしてくれるの?」
俺の言葉に、嬉しそうに目を輝かせている。やっぱりこの娘は笑顔が一番似合う。
「ああ・・・まあこっち来い。立ってると疲れるだろ?」
俺がそう言うと、彼女は靴を脱ぎ始める。
「ありがと~じゃあお邪魔します。」
そう言ってこちらへ上がってくる。
「で、話したいことは?」
俺がそう聞くと、彼女ははっとする。
「あ・・・えっと・・・考えてなかった。」
思わず笑ってしまう。
それを見ると、彼女は意外そうな顔をする。
「空木が・・・笑ってる・・・」
確かにこの娘の前で笑ったこと無かったな。
「なんだよ俺が笑ったらいけねぇかよ。」
冗談混じりで言ってみる。
すると彼女はまた綺麗に笑って答える。
「別に笑っちゃいけないなんて言わないけど・・・空木が笑ってるところ初めて見たから・・・」
それにしても可愛いな。
「それに引き換えお前はよく笑うよな。」
笑って答えると、彼女は焦ったように答える。
「えっ私そんなに笑ってる?」
「笑ってるよ。」
すると彼女は顔を赤く染める。
「べ・・・別に私そんなに笑ってないよ?」
「笑ってるって・・・結羅だっけ・・・お前笑顔が一番似合うから別にこれからもこのまま笑ってていいんだぜ?」
その言葉に、言われた方より言った自分が焦ってしまう。
「い・・・いや別に・・・」
俺が俯くと、彼女は笑って言葉を返す。
「空木、ありがと!・・・てかさ、初めて名前呼んでくれたよね。なんか嬉しくて・・・」
と、彼女まで俯いて顔を赤らめる。
そんな彼女を見ていると、ほろりと言葉が口をついた。
「結羅、お前ほんと可愛いな。・・・あっ、いや」
俺の呟きに、彼女はとても慌てたように答える。
「えぇっ・・・私が、可愛い・・・?」
ああ、可愛いとも。
「い・・・いや別に気にしなくていい・・・お茶、淹れてくるよ。・・・話してばっかだと、喉乾くだろ?」
俺が座蒲団から立ち上がると、彼女が一瞬哀しそうな顔をした。だがすぐいつもの綺麗な笑顔に戻り、俺の目を見て答えてくれる。
「ありがと。じゃあそれまで店番しとくね。」
「ああ、ありがとな。」
・・・哀しそうな顔をしたのは気のせいか。
俺がお茶と台所にあった鯛焼きを盆に乗せて戻ってくると、彼女は約束通り、カウンターで店番をしていた。
「結羅、お茶淹れてきたからこっちに来い」
俺が呼び掛けると、彼女は綺麗に微笑んでこっちにくる。
「うつき、ありがと~」
そして、盆の上の鯛焼きを見ると、目を輝かせる。
「た・・・たい焼き・・・!うつき、たい焼き食べていい?」
こいつ、鯛焼き好きなのか?
俺が返事をする前に、結羅は美味しそうに鯛焼きを頬張り始める。
「うぅ~たい焼きうみゃぁ~」
可愛すぎる・・・
「結羅、お前鯛焼き好きなのか?」
「うん!たい焼きがね、私の一番の大好物なの。」
ほう。覚えておこう。
「空木もたい焼き食べなよ、美味しいから。」
と、鯛焼きを勧められる。
「俺が用意したんだけどな・・・」
結羅にはそんな俺の呟きなんて聞こえていないようで、もう鯛焼きを食べ終えてお茶を飲んでいる。
結羅はお茶を飲み終えると、幸せそうに微笑んだ。
「ふぅ・・・空木、ごちそうさまでした。」
「・・・ああ。」
「・・・そういえば、このお店って空木の家のひとのお店?」
俺がお茶を飲み終えるのを待ち、結羅が話し出す。
「ん?・・・ああ、ばあちゃんの店。高校入ってからたまに手伝ってるんだよ。」
「そうなんだ。・・・あっそれなら今忙しいよね?忙しいときに邪魔してごめんね。私そろそろ帰るね。」
別に邪魔じゃないんだが。
刹那。
ガタッと勢いよく店の扉が開き、人が入ってきた。
「ちょっと待て!本当にそれで良いのか空木紅葉!!」
「!?お前中学の・・・どっから湧いたんだよ・・・」
俺がギョッとしていると、奴は更に大声で話し出す。
「こんな不審な奴にまんまと言いくるめられて、それでいいと思っているのか!?」
こいついきなり何を言っているんだ?
「いや、お前の方が不審だろ。」
「酷いなぁここまで連れてきてくれたのメガネ君じゃない。」
奴の発言に、結羅は口を尖らせる。
「親睦を深めていいとは言っていない。それと俺の名は秋良(アキラ)だ。」
「へぇ、秋良って言うんだメガネ君。私は結羅って言うんだ。よろしくね。」
「そうか了解した、結羅とやら。」
なにやら話している二人を見ていた俺に気付き、結羅は靴を履き始める。
「じゃあ、そろそろ行くね。紅蓮、おいで。」
結羅が呼び掛けると、小動物が結羅の肩に飛び乗る。
「・・・また会いに来ていい?」
「ああ、好きにすれば。」
靴を履き終えると、結羅は手を振って踵を返す。
「またね、空木。」
「ああ。」
結羅が店を出ると、奴も店を出ていく。
・・・この調子だと明日も来そうだな。
* * *
私達が店を出ると、もう日が暮れていた。
「・・・結羅とやら。」
ふいに声をかけられる。
「え?」
「・・・生憎、気軽に話し掛けられる関係ではなくてな。」
キリッと答える。
それに対し、紅蓮が呆れたように言葉を返す。
「変なとこで引っ込み思案だなテメー・・・」
彼はもっともと言うように言葉を返す。
「人見知りするんだ。」
紅蓮は彼の言葉に更に呆れたように言葉を返す。
「人見知り?顔に似合わないこと言うんじゃねぇよ・・・」
紅蓮がそう返すと彼はじっと紅蓮を見つめる。
そして紅蓮ははっとする。
「・・・小動物、貴様喋っているな・・・?」
彼の言葉に紅蓮はとても焦ってへんな言葉を返す。
「いっいや喋ってねーぞ!わんわんわん!なっ結羅!」
「紅蓮・・・」
そして彼は一人で合点する。
「そうか。それが結羅とやら・・・貴様の使い魔ということか。成る程な!」
「え~勝手に納得して頷いてるんだけどこの人・・・」
「誰が『それ』で使い魔だこらーッ!!」
彼と紅蓮がぐぎぎぎぎっと喧嘩しているのは気にせずに、自分の気になることを呟く。
「それにしても・・・店の中で一人で何してるのかな?」
私の呟きに、紅蓮と喧嘩しながら彼が答える。
「さあな。ただ平日は学校が終わると店番をしているようだ。」
彼の言葉に紅蓮は軽蔑の眼差しを向ける。
「お前ってストーカー・・・」
紅蓮の言葉に対し、やはりさらっと答える。
「そんなことはない。ただたまたま気にしている上たまたま知っているだけだ。」
「うーん・・・私ちょっと話してくるね。」
「な!?」
「おい結羅!!」
二人の言葉は気にせずに、『開運堂』と看板のでている店の古い木のドアを開ける。
* * *
相変わらず、客は来ない。
一つ溜め息を吐き、空木 紅葉(クレハ)は店番をしながら昨日祭りで会った少女のことを考える。
綺麗なひとだった。
俺が風車の前に立っていたとき、澄んだ美しい、凛とした女のひとの声が聞こえた。
『ねえ、きみ』と。
声のした方を見ると、自分と同じか少し年下だと思われる少女が、飾られているものと同じ朱の風車を差し出してきた。そして俺の目を見て『これ、落ちてたよ』と言う。
そして咄嗟に答えた。『俺んじゃねーよ』と。
そんな言葉に気分を害したようもなく、彼女は可愛く笑い、風車に息を吹きかけている。
彼女を正面から見てみる。
まず目がいったのは、彼女の目だった。たれ目で濃い赤色をした目だった。だが感じたものは、それだけではなかった。
彼女の目は美しいだけでなく、まるで世界中の悲しみを全て知っているかのような、そんな目をしていた。
引き込まれそうになる。
再び彼女の全身を見る。
頭には桜をモチーフにしたのだろうか、可愛らしいピンク色をした髪飾りをつけている。髪は栗色をして、ゆるくカールをしていて、整った二重の双眸に、形のよい美鼻梁と唇をしている。右目の下には泣黶があり、彼女の華奢な肩には白い小動物も乗っている。
そんな彼女は、平安時代のひとの着る狩衣と指貫ような装いをしていた。
目を見張るほど美しいひとだった。
それに、引っ掛かるものがあった。
どこかで会ったような気がするのだ。
昔から知っているような、とても懐かしい・・・
不意に、店のドアが開く。
母に教えられた通り、『おいでませ、開運堂』と言う。
入ってきた客はなんと昨日の少女だった。
「こんばんは。」
相変わらず綺麗な声で微笑を浮かべ、俺に話し掛けてくる。
「お前は昨日の・・・」
「何してるの?こんなとこで。」
彼女は首をかしげて問いかけてくる。
「・・・別に・・・そっちこそ」
俺がそう答えると、彼女は俺の目を見て答える。
「私は君に会いに来たの。」
いくらか艶やかな声だった。
「・・・は?何で?何か用?」
・・・怪しい。
「理由・・・は会いたかったから、かな?」
「なにそれ意味分かんないんだけど。」
俺の言葉に、薄く微笑んで答える。
「だってなんか君、知ってる感じがするんだよね。」
「『知ってる』?」
「うん。昨日も思ったんだけど、昔会ったことがあるような・・・なんとなくなんだけどね。」
やっぱり怪しい。
俺が溜め息を吐いて下を向くと、心配そうに覗きこんでくる。
「うつき~、どしたの~?」
可愛い、と思ったことは否定しない。だがやはり怪しい。
「・・・・・はぁ・・・・・ほんと怪しいんだけど。」
「えっ」
「人をたぶらかすときの常套句だろ『会ったことがある気がする』なんて。」
溜め息混じりにそう答えると、彼女は少し驚いたように答える。
「えっそうなの!?」
・・・こいつ可愛いな。
「で?俺に会ってどうしたいんだよ。」
俺がさらっと問いかけると、彼女はズバッと答える。
「話をするとか、仲良くなりたい・・・かな?」
「怪しすぎる。」
「そうかなぁ~?」
「・・・そうだよ。」
俺がそう答えると、彼女は少し悲しそうな顔をする。
「私・・・そんなに怪しいかなぁ・・・」
涙目でそれを言われると、流石の俺も焦る。
「あーえっと怪しいとか怪しくないとかは置いといてさ・・・なんか話したいんだろ?こっち上がってこいよ。」
俺のいるカウンターより奥の場所は座敷になっていて、普段客は入れないようになっている。
「えっ・・・空木、お喋りしてくれるの?」
俺の言葉に、嬉しそうに目を輝かせている。やっぱりこの娘は笑顔が一番似合う。
「ああ・・・まあこっち来い。立ってると疲れるだろ?」
俺がそう言うと、彼女は靴を脱ぎ始める。
「ありがと~じゃあお邪魔します。」
そう言ってこちらへ上がってくる。
「で、話したいことは?」
俺がそう聞くと、彼女ははっとする。
「あ・・・えっと・・・考えてなかった。」
思わず笑ってしまう。
それを見ると、彼女は意外そうな顔をする。
「空木が・・・笑ってる・・・」
確かにこの娘の前で笑ったこと無かったな。
「なんだよ俺が笑ったらいけねぇかよ。」
冗談混じりで言ってみる。
すると彼女はまた綺麗に笑って答える。
「別に笑っちゃいけないなんて言わないけど・・・空木が笑ってるところ初めて見たから・・・」
それにしても可愛いな。
「それに引き換えお前はよく笑うよな。」
笑って答えると、彼女は焦ったように答える。
「えっ私そんなに笑ってる?」
「笑ってるよ。」
すると彼女は顔を赤く染める。
「べ・・・別に私そんなに笑ってないよ?」
「笑ってるって・・・結羅だっけ・・・お前笑顔が一番似合うから別にこれからもこのまま笑ってていいんだぜ?」
その言葉に、言われた方より言った自分が焦ってしまう。
「い・・・いや別に・・・」
俺が俯くと、彼女は笑って言葉を返す。
「空木、ありがと!・・・てかさ、初めて名前呼んでくれたよね。なんか嬉しくて・・・」
と、彼女まで俯いて顔を赤らめる。
そんな彼女を見ていると、ほろりと言葉が口をついた。
「結羅、お前ほんと可愛いな。・・・あっ、いや」
俺の呟きに、彼女はとても慌てたように答える。
「えぇっ・・・私が、可愛い・・・?」
ああ、可愛いとも。
「い・・・いや別に気にしなくていい・・・お茶、淹れてくるよ。・・・話してばっかだと、喉乾くだろ?」
俺が座蒲団から立ち上がると、彼女が一瞬哀しそうな顔をした。だがすぐいつもの綺麗な笑顔に戻り、俺の目を見て答えてくれる。
「ありがと。じゃあそれまで店番しとくね。」
「ああ、ありがとな。」
・・・哀しそうな顔をしたのは気のせいか。
俺がお茶と台所にあった鯛焼きを盆に乗せて戻ってくると、彼女は約束通り、カウンターで店番をしていた。
「結羅、お茶淹れてきたからこっちに来い」
俺が呼び掛けると、彼女は綺麗に微笑んでこっちにくる。
「うつき、ありがと~」
そして、盆の上の鯛焼きを見ると、目を輝かせる。
「た・・・たい焼き・・・!うつき、たい焼き食べていい?」
こいつ、鯛焼き好きなのか?
俺が返事をする前に、結羅は美味しそうに鯛焼きを頬張り始める。
「うぅ~たい焼きうみゃぁ~」
可愛すぎる・・・
「結羅、お前鯛焼き好きなのか?」
「うん!たい焼きがね、私の一番の大好物なの。」
ほう。覚えておこう。
「空木もたい焼き食べなよ、美味しいから。」
と、鯛焼きを勧められる。
「俺が用意したんだけどな・・・」
結羅にはそんな俺の呟きなんて聞こえていないようで、もう鯛焼きを食べ終えてお茶を飲んでいる。
結羅はお茶を飲み終えると、幸せそうに微笑んだ。
「ふぅ・・・空木、ごちそうさまでした。」
「・・・ああ。」
「・・・そういえば、このお店って空木の家のひとのお店?」
俺がお茶を飲み終えるのを待ち、結羅が話し出す。
「ん?・・・ああ、ばあちゃんの店。高校入ってからたまに手伝ってるんだよ。」
「そうなんだ。・・・あっそれなら今忙しいよね?忙しいときに邪魔してごめんね。私そろそろ帰るね。」
別に邪魔じゃないんだが。
刹那。
ガタッと勢いよく店の扉が開き、人が入ってきた。
「ちょっと待て!本当にそれで良いのか空木紅葉!!」
「!?お前中学の・・・どっから湧いたんだよ・・・」
俺がギョッとしていると、奴は更に大声で話し出す。
「こんな不審な奴にまんまと言いくるめられて、それでいいと思っているのか!?」
こいついきなり何を言っているんだ?
「いや、お前の方が不審だろ。」
「酷いなぁここまで連れてきてくれたのメガネ君じゃない。」
奴の発言に、結羅は口を尖らせる。
「親睦を深めていいとは言っていない。それと俺の名は秋良(アキラ)だ。」
「へぇ、秋良って言うんだメガネ君。私は結羅って言うんだ。よろしくね。」
「そうか了解した、結羅とやら。」
なにやら話している二人を見ていた俺に気付き、結羅は靴を履き始める。
「じゃあ、そろそろ行くね。紅蓮、おいで。」
結羅が呼び掛けると、小動物が結羅の肩に飛び乗る。
「・・・また会いに来ていい?」
「ああ、好きにすれば。」
靴を履き終えると、結羅は手を振って踵を返す。
「またね、空木。」
「ああ。」
結羅が店を出ると、奴も店を出ていく。
・・・この調子だと明日も来そうだな。
* * *
私達が店を出ると、もう日が暮れていた。
「・・・結羅とやら。」
ふいに声をかけられる。