恋愛短編集
結局、穂佑実は用意されたリムジンに乗り込む。

助手席には、一哉が座っている。

穂佑実は溜め息混じりに窓の向こうを見た。

「穂佑実ちゃん、不自由なのは仕方ないよ。弥一は一応、若頭なわけだし」

「頭では分かってます。……しょっちゅう外に出たい訳じゃなくて」

一哉は口元を緩めた。

「そうだよね。ただまぁ、人が多いところは護衛が難しいから。何かあってからだと遅いから」

穂佑実は備え付けの小さな冷蔵庫からピンクグレープフルーツジュースを取りだし、蓋を取ると口元に運ぶ。

「……おいし」

「弥一もさ、狂愛だよね~。穂佑実ちゃんが欲しくてたまらないみたいだよ。出張の度にこれじゃ、穂佑実ちゃんがもたないよね」

穂佑実は首を左右に振った。

「滅多に壊さないから、大丈夫です」

「今のうちだよ~?妊娠したら、大変だろうね」

「え?」

「ないとは思うけど、ほら、欲求不満?」

穂佑実は、露骨な言葉にむせた。
< 11 / 28 >

この作品をシェア

pagetop