Fragile~思い出に変わるまで〜
さとみと二人で久しぶりにゆっくりと穏やかな時間を過ごしていると、あっという間に夕方の時刻になっていた。


「そろそろ支度しないとね?」


さとみはそう言って、剥いてくれたリンゴをテーブルに置く。


俺はそれを手で摘んで口に頬張ると、用意をするために寝室へと向かった。


手早く着替えて、車のキーを掴むと、これで最後だからというつもりでさとみに向き直る。


「じゃあ、行ってくる

うまくいくようにがんばってくるよ」


そう笑顔で言うと、彼女も笑顔で答える。


「いってらっしゃい
がんばってね?」


彼女は本当に上手くいくことを願ってるに違いない。


これで藤森に会わなくてすむという意味合いもあるだろうが、純粋に思ってくれてるんだろう。


さとみはそういう女だ。

そしてそんな妻のことが、俺は気に入っている。


手を振って送り出してくれる妻に感謝して、俺は決戦への一歩を踏み出した。


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