Fragile~思い出に変わるまで〜
まだ、暑いなぁ……
職場を出た瞬間、もう夕方だというのに肌が汗ばんでくる。
季節はもう初夏を迎えていた。
鞄からハンカチを取り出し、額の汗を拭う。
つわりもおさまり安定期に入ったものの、体重は相変わらずそれほど増えていない。
そのおかげで誰にも妊娠していることを気づかれてはいなかった。
あれから2ヶ月――
子供が出来たことを、職場にはもちろん健にもまだ知らせていない。
少しだけ膨らんだお腹をさすりながら、私はまだ迷っていた。
あれから健は特に変わった様子もなく、相変わらず忙しく働いている。
私に対してもいつもと態度が変わることはなかったけれど、あれから一度も私に触れては来なかった。